卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とは、
どのような状態ですか?
排卵誘発薬を使ったあとに、卵巣が腫れて、お腹や胸に水がたまることがあります。
厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」によると、女性の卵巣は親指ほど(3〜4cm)の大きさです。不妊治療で使う排卵誘発剤によって、卵巣の中の卵胞が過剰に刺激されると、卵巣がふくれ上がり、お腹や胸に水がたまるなどの症状が起こります。これを卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と呼びます。
このとき、血管から水分や血液の成分が外へ漏れ出すため、血管の中では血液が濃くなり、のどが渇いたり、尿の量が減ったりします。重症になると、腎不全や血栓症などの合併症を起こすことがあります。早めにご連絡ください。
どのような症状が出たら、
連絡すればよいですか?
排卵誘発薬を使ったあとに次の症状に気づいたら、すぐに医療機関へご連絡ください。
厚生労働省のマニュアルは、薬を使ったあとに次の症状が出たら、ただちに医師・薬剤師へ連絡するよう呼びかけています。
- お腹が張る(ウエストがきつくなった)
- お腹が痛む
- 吐き気がする
- 急に体重が増えた
- 尿の量が少なくなる
重症では、息苦しさ(呼吸困難)が出ることもあります。血栓症は、頭痛や息苦しさ、腕・脚・首の腫れなど、いろいろな形で出ます。静脈の血栓症は、OHSSが落ち着いてから起こることもあります。症状が治まったあとも、体調の変化に気をつけてください。
当院に通院中の方は、診療時間内はお電話(03-3440-5562)でご連絡ください。診療時間外は、当院公式LINEのメッセージ、または公式WEBサイトのお問い合わせフォームからご連絡いただけます(順番に確認してご返信します)。緊急の場合や症状が重い場合は、お近くの救急医療機関にご相談ください。
どのような治療のときに
起こりますか?
排卵誘発薬を使う治療で起こります。なかでも、体外受精などの卵巣刺激では起こりやすいとされています。
日本生殖医学会によると、排卵誘発薬は、排卵障害があるとき、タイミング法から治療を進めるときや人工授精をするとき、体外受精などのために採卵するときに使われます。薬で卵胞が複数育つと、多胎妊娠やOHSSが起こりやすくなります。
マニュアルによると、OHSSは、一般の排卵誘発でも体外受精などの卵巣刺激でも、排卵を促すhCG製剤を使ったあとに起こりやすくなります。体外受精などの卵巣刺激は、たくさんの卵子を採るために複数の卵胞を育てるので、一般の排卵誘発に比べて起こりやすくなります。
妊娠しているときは、症状が重くなったり長引いたりすることが多くなります。日本生殖医学会の体外受精の説明にも、卵巣刺激でOHSSが起こり、状態によっては入院での治療が必要になることがある、と書かれています。
重症度は、
どのように分けられますか?
自覚症状、お腹や胸の水の量、卵巣の大きさ、血液検査で、軽症・中等症・重症に分けます。
| 所見 | 軽症 | 中等症 | 重症 |
|---|---|---|---|
| 自覚症状 | お腹の張り | お腹の張り、吐き気・嘔吐 | お腹の張り、吐き気・嘔吐、腹痛、呼吸困難 |
| お腹や胸の水 | 骨盤の中にとどまる腹水 | 上腹部に及ぶ腹水 | お腹全体が張るほどの腹水、または胸水がある |
| 卵巣の大きさ(最大径) | 6cm以上 | 8cm以上 | 12cm以上 |
| 血液検査 | すべて正常 | 悪くなる傾向 | 血液の濃縮や、たんぱく質の低下が基準を超える |
ひとつでも当てはまる所見があれば、重いほうに分類します。マニュアルは医療者向けに、中等症にあたる所見があるときや妊娠しているときは、より高度な医療機関での管理を考え、重症にあたるときは入院での管理を考えるよう示しています。
薬によるOHSSは、原因となった薬をやめると良くなることもあります。入院が必要なときは、点滴で血液の濃縮を改善し、尿の量を保つ治療が中心になります。
どのような場合に
起こりやすいですか?
からだの条件も、お薬の使い方や治療の経過も関わります。
マニュアルは、排卵誘発全般でOHSSが起こりやすくなる条件として、次のものを挙げています。
- 年齢が若い、やせている
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)がある
- AMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が高い
- 以前にOHSSや多胎妊娠になったことがある
- 注射の排卵誘発薬の量が多い、血液中のエストラジオールが急に増える
- 育つ卵胞の数や、採卵できる卵子の数が多い
- hCGの量が多い、繰り返し使う
- 妊娠した
お薬の種類と使い方は、からだの状態を見て決めます。AMHの見方はAMH検査でわかること・わからないことで説明しています。
予防のために、
どのような工夫がありますか?
卵胞を増やしすぎない工夫と、排卵を促す注射や移植の時期をずらす方法があります。
注射の排卵誘発薬を少ない量から少しずつ増やす方法や、刺激の弱い飲み薬を選ぶ方法があります。体外受精では、GnRHアンタゴニスト法や、刺激を抑えた方法など、卵巣刺激のしかたを工夫することもあります。
卵胞がたくさん育ったときは、hCGの注射をやめる、遅らせる、量を減らすといった対応をとることがあります。体外受精では、採卵のきっかけにhCG以外のお薬を使う方法もあります。
できた胚をすべて凍結し、後の周期に移植する「全胚凍結」も、予防の方法のひとつに挙げられています。日本生殖医学会の説明でも、採卵した周期に移植すると母体への負担やリスクが高いと判断されたときに、この方法が選ばれます。
卵胞の育ち方を見ながら、方法を選びます。当院での治療の流れとリスクは、タイミング法・体外受精・卵子凍結のページに書いています。
よくある質問
採卵のあと、お腹が張るのはよくあることですか?
採卵後にお腹の張りや痛みが出ることがあります。張りが強くなる、痛みが増す、尿が減るといった変化があれば、ご連絡ください。
タイミング法や人工授精でも起こりますか?
排卵誘発薬を使うと起こることがあります。一般の排卵誘発でも、hCG製剤を使ったあとに起こりやすいとされています。
妊娠すると、症状は変わりますか?
厚生労働省のマニュアルによると、妊娠しているときは、症状が重くなったり長引いたりすることが多くなります。
症状が治まったあとも、気をつけることはありますか?
静脈の血栓症は、OHSSが落ち着いてから起こることがあります。腕・脚・首の腫れ、息苦しさ、頭痛などがあれば、医療機関にご連絡ください。
飲み薬の排卵誘発剤でも起こりますか?
飲み薬でも卵胞が複数育つと起こりやすくなります。飲み薬は注射薬より刺激が弱いので、起こりやすい条件がある方に選ばれることがあります。
副作用で入院した場合、公的な救済制度はありますか?
医薬品を適正に使っても副作用で入院治療が必要になったときなどに、医薬品副作用被害救済制度があります。窓口は医薬品医療機器総合機構(PMDA)です。
監修・更新
監修:城南レディースクリニック品川 院長 岩﨑 信爾(日本生殖医学会認定 生殖医療専門医/日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医)
最終更新:2026年9月19日
この記事は一般的な医学情報をまとめたものです。個別の診断・治療方針は診察のうえでご説明します。
出典
厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」(平成23年3月・令和3年4月改定、PMDA掲載、PDF)
一般社団法人 日本生殖医学会「生殖医療Q&A:Q9.排卵誘発薬にはどんな種類がありますか?」
一般社団法人 日本生殖医学会「生殖医療Q&A:Q12.体外受精とはどんな治療ですか?」
一般社団法人 日本生殖医学会「生殖医療Q&A:Q14.受精卵の凍結保存とはどんな治療ですか?」