執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
…続きを見る
「夜中に何度もトイレで目が覚めて、朝までぐっすり眠れない」「日中は平気なのに、寝ている間に下着が濡れていた」。夜の尿トラブルは、人に相談しにくいうえに睡眠そのものを削ってしまうため、日中の尿もれ以上に生活の質へ影響しやすい症状です。
そして大切なのは、夜の症状は日中の症状と原因が違うことが少なくないという点です。日中の尿もれ対策をそのまま夜に当てはめても、思ったように変わらないことがあります。この記事では、夜だけ症状が出る理由、ご自宅でできる確認と対策、そして医療機関で相談したほうがよいサインを、産婦人科の視点から整理します。
この記事でわかること
- 「夜中に起きる(夜間頻尿)」と「寝ている間に漏れる(夜間尿失禁)」の違い
- 夜だけ症状が出る、夜間特有の6つの原因
- 尿の問題として片づけないほうがよい、かくれた原因
- 受診前に役立つ「排尿日誌」のつけ方
- 今日から試せる、夜の尿トラブルへの生活の工夫
- 骨盤底筋が関わるときの選択肢と、受診の目安
「夜中に起きる」と「寝ている間に漏れる」は別のものです
夜の尿トラブルとひとくくりにされがちですが、医療機関ではこの2つを分けて考えます。原因も、対応の方向も違うためです。
夜間頻尿 ― 夜中に排尿のために目が覚める
就寝してから起床するまでの間に、排尿のために起きることを夜間頻尿といいます。「目が覚めて、トイレに行く」という状態で、漏れてはいません。1回起きる程度であれば気にならない方も多い一方、2回以上になると睡眠が細切れになり、日中の疲れやすさにつながることが知られています。
夜間頻尿は、膀胱そのものの問題だけで起こるとは限りません。むしろ「夜の尿量が多い」「眠りが浅い」といった、膀胱の外側の要因が関わっていることが多いのが特徴です。
夜間尿失禁 ― 眠っている間に漏れてしまう
一方、自分では気づかないうちに、眠っている間に尿が漏れてしまうのが夜間尿失禁です。朝起きたときに下着や寝具が濡れていて初めて気づく、というかたちで自覚されることがほとんどです。
こちらは、尿意で目が覚める仕組みがうまく働いていない、膀胱にためられる量が少なくなっている、あるいは膀胱に尿が残りやすくあふれるように漏れている、といった複数の可能性が考えられます。成人になってからの夜間尿失禁は、背景に別の要因が隠れていることがあるため、一度きちんと調べておきたい症状です。恥ずかしさから相談が遅れやすい症状でもありますが、原因によって対応が大きく変わりますので、早めのご相談をおすすめします。
夜だけ起こるのはなぜ? ― 夜間特有の6つの原因
「日中は困っていないのに、夜だけ」という方は珍しくありません。それは、夜だからこそ起こる仕組みがいくつもあるからです。ここが夜の尿トラブルを考えるうえで、いちばん大事な部分になります。
① 夜間多尿 ― 夜につくられる尿の量そのものが多い
膀胱にためられる量は変わっていないのに、夜の間につくられる尿の量が増えている状態です。夜間頻尿の原因として非常に多いことが報告されており、「膀胱が悪いのだろう」と思って受診された方が、実は夜間多尿だった、というケースは少なくありません。
目安として、1日の尿量のうち夜間の尿量が占める割合が、若い方で20%以上、高齢の方で33%以上を超える場合に夜間多尿と判断されることがあります。この判断には、後述する排尿日誌が欠かせません。逆にいえば、日誌をつけずに「膀胱の問題」と決めつけてしまうと、対策の方向がずれてしまいます。
② 日中の水分・カフェイン・アルコールの取り方
当たり前のようでいて、見落とされやすいのがこれです。特に、日中はあまり飲まず、夕食後から就寝前にまとめて水分を取っているという生活パターンの方は、夜の尿量が増えやすくなります。「健康のために」と、寝る前にコップ数杯の水を習慣にされている方もいらっしゃいます。
コーヒー・緑茶・紅茶などに含まれるカフェインには、尿量を増やす作用と、膀胱を刺激する作用の両方が指摘されています。またアルコールは、尿量を増やすうえに眠りを浅くするため、夜の尿トラブルとは相性がよくありません。「寝酒をすると眠れる」という方でも、夜中に目が覚める回数はかえって増えていることがあります。
③ 夕方の足のむくみが、夜の尿に変わる
これは、ご存じない方が多い仕組みです。立ち仕事やデスクワークで日中ずっと体を起こしていると、重力の影響で水分が足のほうにたまっていきます。夕方になると靴がきつい、ふくらはぎがだるい、靴下の跡がくっきり残る、という方はこの状態です。
そして夜、横になると足と心臓の高さの差がなくなり、足にたまっていた水分が体の中心へ戻ってきます。体はこれを「水分が増えた」と受け取り、尿をつくって外に出そうとします。その結果、寝入ってから数時間後に強い尿意で目が覚める、ということが起こります。
つまり、「夕方のむくみ」と「夜のトイレ」は、同じ現象の昼と夜の姿ということになります。夕方に足がむくみやすい方は、水分の取り方だけを気にするより、むくみ側から手をつけたほうが変化を感じられることがあります。具体的な方法は後述します。
④ 眠りが浅く、目が覚めた「ついで」にトイレへ行っている
順番が逆になっているパターンです。尿意で目が覚めているのではなく、何らかの理由で目が覚めてしまい、そのついでにトイレに行っている状態を指します。ご本人は「またトイレで起きた」と感じているため、尿の問題だと思い込んでしまいます。
更年期のほてりや発汗、こむら返り、いびきや呼吸の乱れ、心配ごとによる中途覚醒など、眠りを浅くする要因はさまざまです。この場合、水分を減らしても回数はあまり変わりません。むしろ睡眠そのものを整えることが、結果として夜のトイレを減らすことにつながります。
見分け方の目安として、目が覚めたときに強い尿意があるか、そしてトイレでしっかりまとまった量が出るかを確かめてみてください。目が覚めた割に尿量が少ないのであれば、睡眠側の要因が関わっている可能性があります。
⑤ 加齢に伴うホルモンの変化
私たちの体には、夜になると尿の量を抑えるはたらきをするホルモン(抗利尿ホルモン)があります。本来は夜間に多く分泌され、眠っている間の尿量が自然に少なくなるようにできています。
ところが、年齢を重ねるとこの夜間の分泌リズムが変化し、夜でも尿量が抑えられにくくなることが知られています。「若いころは朝まで起きなかったのに」という感覚は、気のせいではありません。加齢そのものを止めることはできませんが、後述する生活の工夫や医療的な選択肢によって、症状の負担を軽くしていくことは可能です。
また女性の場合、閉経前後には女性ホルモンの低下により、腟や尿道まわりの粘膜・組織が薄くなりやすい時期を迎えます。これは日中の尿トラブルとも共通する要因で、夜の症状と重なって現れることがあります。
⑥ 骨盤底筋のはたらき
骨盤底筋は、骨盤の底でハンモックのように膀胱・子宮・腸を支えている筋肉の集まりです。ここは日中の尿もれと共通する部分になります。
ここで押さえておきたいのは、骨盤底筋の役割は「必要なときに締める」と「必要なときに緩める」の両方だということです。締める力が弱まれば尿を保ちにくくなりますが、それだけではありません。骨盤底筋がうまく緩まないと、排尿がスムーズにいかず、膀胱に尿が残りやすくなることが知られています。
膀胱に尿が残りやすい状態では、次にためられる余裕が少なくなるため、短い時間で再び尿意が来ます。就寝前にトイレに行ったのに1〜2時間で目が覚める、という方は、この可能性も考えられます。締める練習だけをひたすら重ねるのではなく、緩める側も含めて状態を確かめることが大切です。骨盤底筋トレーニングの進め方については、骨盤底筋トレーニングの正しいやり方と骨盤底筋トレでやってはいけないこともあわせてご覧ください。
尿の問題として片づけないほうがよい「かくれた原因」
ここは、脅かすためではなく遠回りを避けるためにお伝えします。夜間頻尿は、尿路だけでなく全身の状態を映していることがあります。膀胱の問題としてだけ捉えていると、本当の原因にたどり着くまでに時間がかかってしまうことがあるのです。
- 心臓のはたらき:日中に足へたまった水分が夜に戻ってくる背景に、心臓の機能が関わっていることがあります。坂道や階段で息切れする、横になると息苦しい、足のむくみが強いといった症状を伴う場合は要チェックです
- 腎臓のはたらき:尿を濃くする力が落ちると、夜間の尿量が増えることがあります
- 睡眠時無呼吸:眠っている間に呼吸が止まる・浅くなる状態では、夜間の尿量が増えることが報告されています。大きないびき、日中の強い眠気を伴う場合は、この可能性を考えます
- 血糖の問題:血糖値が高い状態が続くと、尿量が増えて夜間の排尿につながることがあります。のどの渇きを伴うことが多いのが特徴です
- お薬:血圧のお薬などに含まれる利尿薬は、飲む時間帯によって夜の尿量に影響することがあります
ここで強くお願いしたいことが一つあります。処方されているお薬について、ご自身の判断で飲む時間を変えたり、量を減らしたりしないでください。「夜のトイレが減るかもしれない」と自己判断で調整すると、本来の治療がうまくいかなくなることがあります。気になる場合は、処方した医師や薬剤師にご相談ください。
また、排尿時の痛み、白く濁った尿、血が混じる、発熱を伴うといった症状があるときは、膀胱炎など感染が関わっている可能性があります。この場合は生活の工夫ではなく、早めの受診をおすすめします。
まず記録から ― 排尿日誌のつけ方
ここまで読んで、「自分はどれに当てはまるのだろう」と思われたかもしれません。それを確かめるのがこの排尿日誌(排尿記録)です。特別な道具はほとんど要りませんし、ご自宅でできて、受診時にはこれ以上ない情報になります。
用意するもの
- 目盛りのついた計量カップ(100mL単位まで読めれば十分です。薬局や100円ショップのもので構いません)
- メモ用紙、またはスマートフォンのメモアプリ
記録する内容
- 起きた時刻と、布団に入った時刻
- 排尿した時刻(夜中の分も。眠いなかで大変ですが、ここがいちばん重要です)
- そのときの尿量(計量カップで測ります)
- 尿もれの有無と、そのときの状況(くしゃみ、間に合わなかった、寝ている間に など)
- 飲んだものと、おおよその量・時刻(水、お茶、コーヒー、お酒など種類も)
記録する期間と、読み取り方
できれば2〜3日分あると傾向がつかめます。毎日続ける必要はありません。仕事の日と休みの日の両方が入っていると、生活パターンとの関係が見えやすくなります。
読み取り方のポイントは3つです。1つめは夜間の尿量が、1日の尿量のうちどれくらいを占めるか。ここが大きければ夜間多尿が疑われます。2つめは1回あたりの尿量。夜中の1回が少量ばかりなら、ためられる量が減っている、あるいは眠りの問題が関わっているかもしれません。3つめは水分を取った時刻と、夜の排尿の時刻の関係です。
「夜中に何度も起きます」という言葉だけでは、正直なところ原因の絞り込みが難しいのです。2日分の排尿日誌があるだけで、夜間多尿なのか、膀胱にためられる量の問題なのか、眠りの問題なのかがかなり見えてきます。完璧でなくて構いませんので、書ける範囲でお持ちください。
今日からできる、夜の尿トラブルへの対策
原因によって効く工夫は変わりますが、ご自宅で安全に試せることをまとめます。すべてを一度に始める必要はありません。ご自身の生活で思い当たるものから、2週間ほど試してみるのがおすすめです。
水分は「減らす」より「配り方を変える」
夜のトイレが気になると、まず水分を控えたくなります。しかし、1日の総量を減らしすぎることはおすすめできません。脱水は体調を崩す原因になりますし、尿が濃くなることで膀胱への刺激が強まることもあります。
意識していただきたいのは時間の配り方です。日中、特に午前から夕方にかけてこまめに取り、夕食以降は控えめにする。この配分に変えるだけで、夜の尿量が変わる方がいらっしゃいます。「夜だけ我慢する」のではなく「昼にきちんと飲む」がコツです。
また、夕方以降のコーヒー・濃いお茶・アルコールは、量とタイミングを見直す価値があります。特にアルコールは、尿量と睡眠の両方に関わるため、1週間だけ夜の一杯をやめてみると変化がはっきりすることがあります。
夕方に足を上げて、むくみを先に流しておく
前述の「足にたまった水分が夜に戻ってくる」仕組みに対する工夫です。就寝の3〜4時間前、夕方の時間帯に、クッションや座布団で足を心臓より少し高くして30分ほど横になります。テレビを見ながらでも構いません。
ねらいは、夜中ではなく寝る前の時間帯に、たまった水分を尿として出しておくことです。足上げのあとにトイレが近くなるのは想定どおりの反応ですので、心配いりません。就寝時間の直前に行うと、寝ついてすぐ尿意が来てしまうため、時間帯だけご注意ください。
あわせて、夕方に軽く歩く、ふくらはぎを動かす、着圧のあるソックスを日中に使うといった方法も、むくみ対策として役立つことがあります。ただし着圧製品は、持病のある方や締めつけが強すぎる場合には向かないことがありますので、痛みやしびれが出るようなら中止してください。
夕食の塩分を見直す
塩分を多く取ると体は水分をため込みやすくなり、むくみや夜間の尿量に影響することがあります。減塩が夜間頻尿の軽減につながったという報告もあります。ラーメンの汁を残す、汁物を1日1杯までにする、漬物を控えるなど、夕食の一皿から始めてみてください。
就寝前のトイレと、寝室の環境
寝る直前にトイレを済ませておくのは基本ですが、ここで大事なのは「勢いよく出し切ろうと力まないこと」です。いきんで出そうとすると腹圧が上がり、骨盤底に下向きの負担がかかります。息を止めずに、リラックスして座り、出るのを待つようにしてください。骨盤底筋が緩みにくい方ほど、この姿勢と呼吸が効いてきます。
もう一つ、意外に大切なのが夜中の転倒予防です。暗いなかで慌ててトイレに向かうと、つまずきや転倒の危険があります。廊下やトイレまでの動線に足元灯を置く、床に物を置かない、寝室を冷やしすぎないといった備えをしておくと安心です。回数を減らす工夫と同じくらい、起きたときに安全であることを大切にしてください。
睡眠そのものを整える
「目が覚めたついでにトイレへ行っている」パターンでは、ここが本丸になります。起床時刻をそろえる、朝に光を浴びる、就寝前のスマートフォンを控える、寝室を暗く静かに保つ。ありふれた内容に見えますが、夜のトイレ回数が睡眠の質に引きずられている方には、水分制限よりも効いてくることがあります。
更年期のほてりや発汗で目が覚めている場合は、その症状自体への対応が優先されます。夜間の症状が更年期の時期と重なっている方は、その点も含めてご相談ください。
夜に漏れてしまうとき ― タイプによって対処が変わります
尿もれには大きく分けていくつかのタイプがあり、タイプによって向いている対処が違います。夜の症状を考えるうえでも、この整理は欠かせません。
- 腹圧性尿失禁:くしゃみ・咳・大笑い・運動など、お腹に力が入った瞬間に漏れるタイプ。骨盤底筋の支持力の低下が関わり、骨盤底筋トレーニングや磁気刺激といったアプローチが向いています
- 切迫性尿失禁:急に強い尿意が来て、トイレまで間に合わないタイプ。膀胱側の問題が中心で、薬物療法が治療の柱になります
- 混合性尿失禁:上の両方の要素をあわせ持つタイプ。女性では珍しくありません
横になって眠っている間はお腹に強い力がかかりにくいため、夜間の尿もれでは、腹圧性よりも切迫性の要素や、ためられる量の問題が関わっていることが多いと考えられます。また前述のとおり、膀胱に尿が残りやすくあふれるように漏れているケースもあります。
ここが重要なところで、切迫性の要素が強い場合、骨盤底筋を鍛えることだけでは十分に対応しきれないことがあります。逆に、日中はくしゃみで漏れ、夜も気になるという混合性の方では、両方向からの対応が必要になります。タイプ別のより詳しい説明は、女性の尿漏れの原因や種類・治療方法と腹圧性尿失禁とはをご覧ください。日中の頻尿も重なっている方には、女性のための頻尿対策ガイドが参考になります。
なお、出産を経験された方では産後に骨盤底へ負担がかかっており、その影響が年月を経て現れることもあります(産後の尿もれ・頻尿はいつまで続く)。また、下腹部の重い感じや違和感を伴う場合には骨盤臓器脱が関わっていることもあります。40代以降で症状が重くなってきた方は40代で尿漏れがひどい方へもあわせてどうぞ。
骨盤底筋が関わるときの選択肢
排尿日誌や診察の結果、骨盤底筋のはたらきが関わっていると考えられる場合には、そこに働きかける方法が選択肢になります。ご自身でのトレーニングが基本ですが、目に見えない筋肉であるぶん、正しく動かせているかが分かりにくく、続けること自体が難しいという声も多くいただきます。
自分でのトレーニングが続かない方へ ― 座るだけの骨盤底筋トレーニング
骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)は有効な方法ですが、「正しく収縮できているか分からない」「忙しくて続かない」という声も多くあります。
当院では、服を着たまま椅子に座るだけで骨盤底筋に高強度の磁気刺激を与え、収縮運動を起こす「スターフォーマー」による治療を行っています。1回20分程度・週1〜2回の通院で、ご自身のトレーニングでは動かしにくい筋肉まで働きかけます。
- こんな方に:くしゃみ・咳・運動での尿もれ(腹圧性尿失禁)、産後の骨盤底のゆるみ、頻尿が気になる方
- 料金:1回 22,000円/8回セット 158,400円(税込・自由診療)
- 腟側の組織に働きかけるインティマレーザーとの併用プラン(10%オフ)もあります
スターフォーマーは国内では医薬品医療機器等法上の承認を受けていない医療機器です(医師の判断のもと個人輸入により導入・自由診療)。効果には個人差があり、適応は診察で判断します。
ここは正直にお伝えしておきたいところです。こうした機器は、夜間の尿トラブル全般に等しく効くものではありません。骨盤底筋の支持力が関わっている部分に対する選択肢のひとつ、という位置づけです。
たとえば夜間多尿が主体の方、つまり夜につくられる尿の量そのものが多い場合には、筋肉に働きかけるアプローチだけでは足りず、水分・塩分・むくみへの対応や、背景にある全身の状態の評価が先になります。睡眠の問題が主体の方も同様です。だからこそ、機器を検討する前に排尿日誌と診察で「何が起きているのか」を見きわめることを大切にしています。
また、骨盤底筋は「締める」だけでなく「緩む」ことも役割ですので、緩みにくい状態が疑われるときには、締める方向のアプローチをそのまま強めることが適さない場合もあります。当院では診察で状態を確認したうえで、どの方向が必要かを含めてご提案しています。機器そのものについてはスターフォーマーとはもご参照ください。
受診の目安と、何科にかかればよいか
早めにご相談いただきたいサイン
- 夜中に2回以上トイレで目が覚める日が続き、日中の眠気や疲れを感じている
- 眠っている間に漏れてしまうことがある(気づかないうちに濡れている)
- 足のむくみが強い、横になると息苦しい、階段で息切れするなどを伴う
- 大きないびきをかく、眠っている間に呼吸が止まっていると指摘されたことがある
- のどの渇きが強く、水をたくさん飲むようになった
- 排尿時の痛み、濁り、血尿、発熱がある
- 尿が出にくい、残っている感じがする
- 夜中に起きた際に、ふらつきや転びそうになった経験がある
これらに当てはまるからといって、深刻な病気があると決まるわけではありません。ただ、調べておいたほうがよい要素が含まれているということです。生活の工夫を2〜4週間試しても変化が感じられないときも、一度ご相談ください。
何科を受診するか
女性の尿トラブルは、婦人科・女性泌尿器科のいずれでもご相談いただけます。骨盤底や女性ホルモンが関わることが多いため、両方の視点で診られる医療機関だと相談しやすいでしょう。当院の尿失禁・尿もれの診療でも、まずお話を伺い、必要に応じて検査を組み合わせて原因を整理していきます。
一方で、むくみ・息切れ・いびきなど全身の症状を伴う場合には、尿の問題としてだけ捉えず、内科での評価もあわせて検討したほうがよいことがあります。「産婦人科に行くべきか内科に行くべきか分からない」という状態で受診を先延ばしにするのがいちばんもったいないので、まずは相談しやすいところで大丈夫です。必要に応じて適切な科へおつなぎします。
よくある質問(FAQ)
夜中に何回トイレに起きたら異常ですか?
回数だけで線を引くのは難しいのですが、医学的には「就寝後、排尿のために1回以上起きる」状態を夜間頻尿と呼びます。ただし1回であれば気にならない方も多く、2回以上になると睡眠の質や日中の体調に影響が出やすいとされています。大切なのは回数そのものより、ご本人が困っているかどうかです。1回でも眠り直せずつらい場合はご相談いただいてかまいませんし、逆に2回起きても翌日に支障がなければ、ひとまず経過をみることもあります。
寝る前に水分を控えれば夜のトイレは減りますか?
原因によります。夕食後にまとめて水分を取っていた方であれば、時間の配り方を変えることで変化を感じられることがあります。一方、夕方の足のむくみが夜に戻ってくることが主な原因である方や、眠りが浅くて目が覚めている方では、水分を控えても回数はあまり変わりません。また1日の総量を減らしすぎるのは、脱水や尿の濃縮につながるためおすすめできません。控えるのは夕食以降にとどめ、日中にきちんと飲むようにしてください。
日中は困っていないのに、夜だけ症状が出るのはなぜですか?
夜には、日中とは違う仕組みがいくつも重なるためです。横になることで足にたまっていた水分が体の中心へ戻り、尿がつくられること。夜に尿量を抑えるホルモンのはたらきが年齢とともに変化すること。眠りが浅く目が覚めやすくなっていること。これらは日中には起こりません。日中の尿もれ対策をそのまま夜に当てはめても変化が出にくいのは、このためです。
寝ている間に漏れてしまいます。大人でもあることですか?
珍しいことではなく、実際にご相談をいただく症状です。ただし成人の夜間尿失禁は、尿意で目が覚める仕組みの問題、膀胱にためられる量の減少、膀胱に尿が残ってあふれるように漏れているなど、いくつかの可能性が考えられます。背景に別の要因が隠れていることもあるため、生活の工夫だけで様子をみるより、一度調べておくことをおすすめします。恥ずかしさから受診をためらう方が多い症状ですが、原因が分かれば対応の方向が見えてきます。
骨盤底筋トレーニングは夜間頻尿にも役立ちますか?
骨盤底筋のはたらきが関わっている部分には役立つことがあります。膀胱に尿が残りやすい状態が改善すれば、次に尿意が来るまでの時間が延びることが期待できます。ただし夜間多尿が主体の方や、睡眠の問題が主体の方では、トレーニングだけでは十分に対応しきれないことがあります。まず排尿日誌で何が起きているかを確かめてから取り組むと、遠回りになりません。
夜間頻尿は年齢のせいだから、仕方がないのでしょうか?
加齢に伴う変化が関わっているのは事実ですが、「年齢のせい」で片づけてしまうと、対応できる原因を見逃してしまうことがあります。水分や塩分の取り方、夕方のむくみ、睡眠、お薬の飲む時間帯など、調整の余地がある要素は少なくありません。また心臓・腎臓・睡眠時無呼吸などが背景にあるケースもあります。年齢だから、とあきらめる前に、一度整理してみる価値があります。
まとめ
夜の尿トラブルは、日中の尿もれとは違う仕組みが関わっていることが多い症状です。だからこそ、日中と同じ対策をそのまま持ち込んでもうまくいかないことがあります。
- 「夜中に起きる」と「寝ている間に漏れる」は別のもの。まずどちらかをはっきりさせる
- 夜だけ起こる背景には、夜間多尿・水分の取り方・夕方のむくみ・浅い睡眠・ホルモンの変化・骨盤底筋のはたらきがある
- 心臓・腎臓・睡眠時無呼吸などが関わることもあるため、尿の問題としてだけ捉えない
- お薬の飲む時間や量を、ご自身の判断で変えない
- 排尿日誌を2〜3日つけると、原因の絞り込みが大きく進む
- 水分は減らすより時間の配り方を変える。夕方の足上げと減塩、睡眠を整えることも有効な選択肢
- 骨盤底筋が関わる部分には働きかける方法があるが、夜間多尿が主体なら別の対応が先になる
夜の症状は、眠りを削り、日中の元気まで少しずつ削っていきます。「年齢のせい」「恥ずかしいから」と我慢を重ねる必要はありません。尿失禁・尿もれのご相談は、どうぞお気軽にお越しください。排尿日誌をお持ちいただけると、初回からより具体的なお話ができます。
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
…続きを見る



診察でも、まず「起きてトイレに行くのか」「気づかないうちに漏れているのか」を最初に確認します。ご本人にとっては同じ『夜の悩み』でも、この2つで調べる方向がまったく変わるためです。受診の際は、どちらなのかを一言添えていただけると助かります。