執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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尿もれ対策として広く知られている骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)。ところが「毎日続けているのに変わらない」「かえって下腹部が重い気がする」という声も少なくありません。骨盤底筋は目で見えない筋肉のため、自己流だと「効いていない」だけでなく「向きが違う」ことに気づきにくいのが難しいところです。
この記事では、骨盤底筋トレーニングでやってはいけないこと、鍛えすぎたときに起こりうること、そして「正しく動いているか」を自分で確かめる方法を、産婦人科の視点から整理します。
この記事でわかること
- 骨盤底筋トレーニングでやってはいけない5つのこと
- 「鍛えすぎ」で起こりうること(骨盤底筋の過緊張)
- 骨盤底筋が正しく動いているかを確かめる方法
- 自己流をいったん止めて相談したほうがよいサイン
- 効果を判定する期間の目安と、続かないときの選択肢
骨盤底筋は「締める」だけの筋肉ではありません
骨盤底筋は、骨盤の底でハンモックのように膀胱・子宮・腸を支えている筋肉の集まりです。尿もれ対策というと「締める」ことばかりが注目されますが、骨盤底筋の役割は「必要なときに締める」と「必要なときに緩める」の両方です。
くしゃみや咳の瞬間にとっさに締まることで尿もれを防ぎ、反対に排尿・排便のときにはしっかり緩むことで、スムーズに出し切ることができます。どちらか一方だけでは、骨盤底はうまく働きません。
骨盤底筋がうまく緩まないと、排尿がスムーズにいかず、膀胱に尿が残りやすくなることが知られています。「締める練習」だけを一生懸命に続けると、この「緩む」側が働きにくくなってしまうことがあります。
骨盤底筋トレーニングでやってはいけない5つのこと
① 息を止めて力む
いちばん多い間違いです。息を止めて「うっ」と力むと、お腹の中の圧(腹圧)が上がり、骨盤底を上から押し下げる方向に力が働きます。これでは骨盤底筋を持ち上げるつもりが、逆方向の負荷をかけていることになります。
正しくは、息を吐きながら、あるいは自然な呼吸を続けたまま締めます。「呼吸を止めずにできる強さ」が、その人にとって適切な強さの目安です。
② お腹・お尻・太ももに力を入れて代用する
骨盤底筋は小さく、動きが自覚しにくい筋肉です。そのため「締めているつもり」でも、実際に動いているのは腹筋・臀筋・内ももということがよくあります。周りの大きな筋肉が代わりに働いてしまう状態です。
片手をお腹に、もう一方をお尻に当てて行ってみてください。その部分が硬くなる・持ち上がる感覚があれば、骨盤底筋ではなく周りの筋肉が働いています。
③ 「回数を増やせば早く効く」と考える
筋トレの感覚で回数を一気に増やす方がいますが、骨盤底筋は疲労すると質が落ちる筋肉です。疲れた状態で回数だけを重ねると、②のように別の筋肉での代償が起こりやすくなり、練習そのものの精度が下がります。
回数よりも「正しく締まっている数回」を優先し、こまめに分けて行うほうが現実的です。詳しい回数と姿勢の進め方は骨盤底筋トレーニングの正しいやり方で解説しています。
④ 痛み・違和感があるのに続ける
骨盤底筋トレーニングは、本来は痛みを伴うものではありません。会陰部や下腹部の痛み、重い感じ、性交時の痛みが出てきた場合は、いったん中止して相談してください。やり方が合っていない可能性のほか、後述する過緊張の状態が関係していることもあります。
⑤ 排尿の途中で尿を止める練習を繰り返す
「排尿を途中で止めてみると骨盤底筋の位置が分かる」という説明を見かけます。位置を一度確認するだけならともかく、これを日常的なトレーニングとして繰り返すことは勧められていません。排尿の途中で止める動作を習慣にすると、膀胱を空にしきれず残尿につながる可能性が指摘されているためです。
トイレは「トイレのための時間」と割り切り、トレーニングは別の時間に行いましょう。
「鍛えすぎ」で起こりうること — 骨盤底筋の過緊張
骨盤底筋が常に力の入った状態から抜けにくくなることを、骨盤底筋の過緊張と呼びます。緩めることが苦手になるため、次のような症状につながることがあります。
- 尿が出始めるまでに時間がかかる、勢いが弱い
- 出し切れた感じがしない(残尿感)
- 頻繁にトイレに行きたくなる
- 会陰部や下腹部の重さ・痛み
- 性交時の痛み
紛らわしいのは、これらの症状の一部が「骨盤底筋が弱い」ときにも起こることです。頻尿や残尿感は、緩みすぎでも締まりすぎでも起こりえます。つまり症状だけを見て「もっと鍛えよう」と判断すると、方向を間違える可能性があるということです。
骨盤底筋が正しく動いているか確かめる方法
ご自宅でできる範囲の確認方法です。判断がつかないときは無理に続けず、診察でご相談ください。
呼吸が止まっていないか
締めている間、普通に会話ができる程度の呼吸が続いているかを確認します。息が止まっているなら、力の入れ方が強すぎます。
お腹とお尻が動いていないか
前述のとおり、両手を当てて確認します。骨盤底筋だけが働いているとき、お腹の表面やお尻はほとんど動きません。
「締める」と同じくらい「緩む」ができているか
ここが見落とされがちです。締めたあと、締めていた時間と同じか、それ以上の時間をかけて完全に力を抜けているかを意識してください。締めっぱなしで次の回に入っているなら、緩める練習が足りていません。
日中、無意識に力が入っていないか
デスクワーク中やスマートフォンを見ているとき、ふと気づくとお尻や骨盤底に力が入っている方がいます。緊張しやすい方に多いパターンです。気づいたら息を吐いて力を抜く、を繰り返してみてください。
自己流をいったん止めて相談したほうがよいサイン
- 3か月以上続けているのに、尿もれの回数がまったく変わらない
- トレーニングを始めてから、尿の出にくさや残尿感が出てきた
- 会陰部・下腹部の痛みや重さがある
- 性交時に痛みを感じるようになった
- そもそも「締まっている感覚」が自分ではまったく分からない
- 下腹部に何かが下がってくる感じがある
最後の「下がってくる感じ」は骨盤臓器脱のサインのことがあります。この場合、締める練習だけでは対応が難しいことがあるため、早めにご相談ください。
効果はどのくらいの期間で判定する?
骨盤底筋トレーニングは、早い方で2週間ほどで変化を感じることもありますが、一般には3か月ほど続けてから効果を判定するのが目安とされています。数日で判断できるものではありません。
大切なのは、「続けた期間」ではなく「正しく続けた期間」で判定することです。やり方が合っていないまま3か月続けても、それは3か月分の練習にはなりません。開始から1か月ほどの時点で一度、方法が合っているかを確認できると回り道を減らせます。
記録をつけておくと判定しやすくなります。1日の尿もれの回数、パッドを使った枚数、どんな場面で漏れたか。この3つをメモしておくだけでも、変化の有無がはっきりします。
なお、尿もれにはいくつかのタイプがあり、タイプによって骨盤底筋トレーニングの効きやすさは異なります。くしゃみや咳で漏れる腹圧性尿失禁は比較的トレーニングの効果が期待できる一方、急に強い尿意がきて間に合わないタイプでは、別のアプローチが必要になることがあります。
続かない・効かないときの選択肢
正しく行えていても、生活のなかで毎日続けること自体が難しいという声は多くあります。また、ご自身の意思で動かせる範囲には限界があり、深い層の筋肉までは働きかけにくいという事情もあります。
自分でのトレーニングが続かない方へ ― 座るだけの骨盤底筋トレーニング
骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)は有効な方法ですが、「正しく収縮できているか分からない」「忙しくて続かない」という声も多くあります。
当院では、服を着たまま椅子に座るだけで骨盤底筋に高強度の磁気刺激を与え、収縮運動を起こす「スターフォーマー」による治療を行っています。1回20分程度・週1〜2回の通院で、ご自身のトレーニングでは動かしにくい筋肉まで働きかけます。
- こんな方に:くしゃみ・咳・運動での尿もれ(腹圧性尿失禁)、産後の骨盤底のゆるみ、頻尿が気になる方
- 料金:1回 22,000円/8回セット 158,400円(税込・自由診療)
- 腟側の組織に働きかけるインティマレーザーとの併用プラン(10%オフ)もあります
スターフォーマーは国内では医薬品医療機器等法上の承認を受けていない医療機器です(医師の判断のもと個人輸入により導入・自由診療)。効果には個人差があり、適応は診察で判断します。
ただし、こうした機器も「締める」方向に働きかけるものです。前述の過緊張が疑われる場合は、まず緩める側から取り組んだほうがよいこともあります。当院では診察で骨盤底筋の状態を確認したうえで、どちらの方向が必要かを含めてご提案しています。
特に注意したい方
産後の方
産後は骨盤底に大きな負担がかかった直後で、組織が回復していく途中です。いつから本格的に始めてよいかは、分娩の経過や会陰の状態によって変わります。出血が続いている時期や、会陰の傷の痛みがあるうちに強い締め付けを繰り返すのは避けてください。
産後健診のタイミングで、始めてよい時期と強さを確認しておくと安心です。産後の尿もれの経過については産後の尿もれ・頻尿はいつまで続く?で詳しく解説しています。
更年期以降の方
閉経の前後は女性ホルモンの低下により、腟や尿道まわりの粘膜・組織が薄くなりやすい時期です。この場合、筋肉のトレーニングだけでは対応しきれない要素が加わります。乾燥や違和感を伴うときは、粘膜側へのアプローチも含めて検討したほうがよいことがあります。
便秘・慢性的な咳がある方
いきむ回数が多い、咳が長く続いているという状態は、骨盤底に繰り返し下向きの圧をかけます。トレーニングで鍛える一方、日常的に負担をかけ続けていては差し引きゼロになりかねません。便通や咳の対策も同時に進めることが、遠回りのようで近道です。
もともと体に力が入りやすい方
歯を食いしばる癖がある、肩に力が入りやすいといった方は、骨盤底も同じように緊張しやすい傾向があります。この場合、「もっと締めよう」と頑張ることが裏目に出ることがあります。まず緩める練習から入ったほうがよいケースです。
よくある質問(FAQ)
骨盤底筋は鍛えすぎるとどうなりますか?
締めることばかりを続けると、緩めることが苦手な状態(過緊張)につながることがあります。尿が出にくい、残尿感がある、会陰部が痛むといった症状が出た場合は、いったん中止してご相談ください。締める・緩めるの両方をバランスよく行うことが大切です。
毎日続けても大丈夫ですか?
正しい方法で、痛みがなく、呼吸を止めずにできているなら毎日行って問題ありません。ただし疲れた状態で回数だけを重ねると、周りの筋肉での代償が起きやすくなります。回数よりも質を優先してください。
スクワットで骨盤底筋は鍛えられますか?
スクワットは主に太ももやお尻の筋肉を使う運動で、骨盤底筋を直接ねらった運動ではありません。フォームによっては腹圧が上がり、骨盤底に下向きの負担がかかることもあります。骨盤底筋そのものを意識した運動を、別に行うことをおすすめします。
排尿の途中で尿を止める練習はしてもいいですか?
筋肉の位置を確認する目的で一度試す程度にとどめ、日常的なトレーニングとして繰り返すことは避けてください。習慣にすると膀胱を空にしきれず、残尿につながる可能性が指摘されています。
締まっている感覚がまったく分かりません。
珍しいことではありません。骨盤底筋は動きが見えず、もともと自覚しにくい筋肉です。感覚がつかめないまま自己流を続けると、別の筋肉での代償が習慣になってしまうことがあります。診察で状態を確認しながら進めることをおすすめします。
何科を受診すればよいですか?
婦人科・女性泌尿器科のいずれでも対応できます。女性の尿もれは産婦人科的な要因と泌尿器科的な要因が重なることが多いため、両方を診られる医療機関だと相談しやすいでしょう。
まとめ
骨盤底筋トレーニングは、正しく行えば尿もれの改善が期待できる方法です。一方で、目に見えない筋肉を扱うぶん、「間違ったまま長く続けてしまう」ことが起こりやすいという側面があります。
- 息を止めない。お腹・お尻で代用しない
- 回数より質。疲れたら止める
- 痛みが出たら続けない
- 排尿を途中で止める練習は繰り返さない
- 「締める」と同じくらい「緩める」を大切にする
3か月続けても変わらないとき、あるいは始めてから症状が増えたときは、方向が合っていない可能性があります。尿もれのご相談は、どうぞお気軽にお越しください。
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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「尿もれ=骨盤底筋が弱い=鍛える」と思い込んで、何か月も締める練習だけを続けてしまう方がいます。まず必要なのは、いま締まりすぎているのか、緩んでいるのかを確かめることです。ここは自己判断が難しい部分なので、遠慮なくご相談ください。