執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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くしゃみや咳、重い物を持ったときに起こる尿もれ(腹圧性尿失禁)の多くは、骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)で改善が期待できると考えられています。軽症であれば手術をしなくても、正しい方法で続けることで症状がやわらぐことが多く報告されています。大切なのは「正しいやり方」と「最低3か月の継続」です。逆に、自己流で力を入れる場所を間違えていると、長く続けても効果が出にくいこともあります。
「尿もれは年齢のせいだから仕方ない」「手術しないと治らないのでは」とあきらめていませんか。この記事では、骨盤底筋トレーニングについて次のことがわかります。
- 骨盤底筋トレーニングがどんな症状に効くのか
- 正しいやり方と、1日の回数・姿勢の進め方
- 効果が出るまでの期間と続けるコツ
- 効果が不十分なときの次の選択肢
- よくあるご質問(いつから効く・何科を受診など)
骨盤底筋トレーニング(ケーゲル体操)とは
骨盤底筋トレーニング(PFMT)は、尿道・腟・肛門をささえる「骨盤底筋群」の収縮とゆるめる動きを繰り返し、弱くなった骨盤底筋をきたえる体操です。提唱者の名前から「ケーゲル体操」とも呼ばれます。腹圧性尿失禁や軽い骨盤臓器脱に対する、第一に選ばれる保存療法(手術によらない治療)と位置づけられています。
どんな症状に効くの?
- 腹圧性尿失禁(咳・くしゃみ・重い物を持ったときの尿もれ)
- 軽症の骨盤臓器脱(軽い子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤など)
- 過活動膀胱(OAB)の補助(急に強い尿意がくる切迫性尿失禁の併存例)
- 産後の骨盤底機能の回復
- 性機能の改善、慢性的な骨盤の痛みの軽減
成人女性の約25%が尿失禁を経験するとされ、そのうち腹圧性が約半数を占めると報告されています。出産を経験した方は骨盤底筋がゆるみやすく、尿もれが起こりやすい傾向があります。
なぜ骨盤底筋は弱くなるの?
- 出産(とくに複数回の出産・難産・大きな赤ちゃんの出産)
- 加齢や閉経後のエストロゲン低下
- 慢性的に腹圧がかかる状態(慢性的な咳・便秘・肥満・重労働)
- 骨盤内の手術歴 など
これらにより膀胱や尿道をささえる力が弱まり、腹圧がかかったときに尿がもれやすくなると考えられています。
尿もれにはタイプがあります
ひとくちに「尿もれ」といっても、いくつかのタイプがあり、骨盤底筋トレーニングが特に有効なものと、別の治療が中心になるものがあります。自分のタイプを知ることが、改善への近道です。
| タイプ | 特徴 | 骨盤底筋トレーニングの位置づけ |
|---|---|---|
| 腹圧性尿失禁 | 咳・くしゃみ・運動・重い物を持ったときにもれる。最も多い | 第一選択。特に有効 |
| 切迫性尿失禁 | 急に強い尿意がきて間に合わない | 薬物療法が中心。トレーニングは補助 |
| 混合性尿失禁 | 腹圧性と切迫性が混在 | トレーニングと薬物療法の組み合わせ |
成人女性の尿失禁のうち、腹圧性が約半数、切迫性が約2割、混合性が約3割を占めるとされています。どのタイプかは、症状の出方や検査(残尿測定、パッドテスト、問診票など)で評価できます。骨盤底筋トレーニングは腹圧性に特に効果が期待でき、ほかのタイプでも補助的に役立つと考えられています。
骨盤底筋トレーニングの正しいやり方
基本の動き
尿道・腟・肛門を「ギュッと締めて、ゆるめる」動きを繰り返します。イメージとしては「おしっこを途中で止めるように」「肛門を引き上げるように」締めます。短く締める動き(2〜3秒)と、長く締め続ける動き(5〜10秒)を組み合わせると効果的とされています。
回数の目安
- 1日あたり30〜100回を目標に、できるときに分けて行います
- 呼吸は止めず、自然に続けます
姿勢は少しずつステップアップ
| 段階 | 姿勢 |
|---|---|
| 慣れるまで | あお向け(重力の負担が少なく、感覚をつかみやすい) |
| 慣れてきたら | 椅子に座った姿勢 |
| 上達したら | 立った姿勢、家事や通勤などの日常動作に組み込む |
うまくできるためのコツ
- お腹・太ももの内側・お尻に力を入れず、骨盤底筋だけを意識します
- 呼吸を止めないこと
- 「おしっこを途中で止める」確認は、やり方を覚える目的の一度だけにとどめ、繰り返し行うのは避けます
正しくできているか不安な場合は、医療機関で骨盤底筋の動きを確認しながら指導を受けると安心です。バイオフィードバック装置や電気刺激療法などの補助的な方法もあります。
効果が出るまでの期間
効果の感じ方には個人差がありますが、目安は次のとおりです。
| 時期 | 目安 |
|---|---|
| 早い人 | 約2週間で効果を実感することがある |
| 通常 | 3か月〜半年で効果が現れることが多い |
| 改善率 | 軽症の腹圧性尿失禁で20〜80%に症状改善の報告(幅があります) |
継続が前提で、中断すると効果が弱まることがあります。効果の判定は最低3か月続けてからと考え、早めにあきらめないことが大切です。
「ながら運動」で習慣にする
- 通勤中・家事中・テレビを見ながらなど、「ながら運動」で習慣化します(外見からは分かりません)
- 体重管理(肥満は腹圧が上がる要因になります)
- 慢性的な便秘や咳への対処
- 重い物を持ち上げるときは息を吐きながら(腹圧の管理)
- 産後は1か月健診で許可を得てから始めます
効果が不十分なときの選択肢
骨盤底筋トレーニングだけでは十分な改善が得られない場合、症状に応じて次の治療を検討します。
| 症状 | 次のステップ |
|---|---|
| 腹圧性尿失禁 | 薬物療法、TVT/TOTなどの手術 |
| 切迫性尿失禁 | 抗コリン薬・β3刺激薬、膀胱訓練などの行動療法 |
| 骨盤臓器脱 | ペッサリー、外科手術 |
当院では外来で骨盤底機能を評価し、正しいトレーニングの指導を行っています。中等度以上の尿失禁や骨盤臓器脱は、泌尿器科・ウロギネ専門医と連携します。尿もれ治療の選択肢については [内部リンク: 腹圧性尿失禁の原因と治療] や [内部リンク: 骨盤臓器脱] もあわせてご覧ください。
産後の骨盤底ケアにも
妊娠・出産は骨盤底筋に大きな負担がかかり、産後に尿もれを感じる方は少なくありません。多くは一時的なもので、骨盤底筋トレーニングによる回復が期待できると考えられています。産後早くから(許可を得たうえで)取り組むことは、将来の尿もれや骨盤臓器脱の予防にもつながると考えられています。
- 開始は産後1か月健診で許可を得てからが安心です
- 無理のない範囲で、あお向けの姿勢から少しずつ始めます
- 授乳や育児の合間に「ながら」で行うと続けやすくなります
- 産後しばらく経っても尿もれが続く場合は受診してください
当院では産後1か月健診以降に、骨盤底機能の評価とトレーニング指導を行っています。3か月後をめどに効果を再評価し、必要に応じて次の治療を検討します。
受診の目安と「何科に行けばいい?」
- 尿もれが続く・量が増えてきた
- 正しくトレーニングできているか分からない
- 3か月続けても改善が乏しい
- 下腹部の違和感や、何か下がってくる感じがある
女性の尿もれは、婦人科・レディースクリニックで相談できます。「年齢のせい」とあきらめず、まずはご相談ください。産後の方は1か月健診以降に骨盤底機能の評価とトレーニング指導が可能です。
尿もれ以外のサインにも気づいて
骨盤底筋がゆるむと、尿もれ以外にもさまざまなサインが現れることがあります。次のような症状に心当たりがある方も、骨盤底筋トレーニングが役立つ可能性があります。
- 立ち上がったときや夕方に、陰部に何か下がってくる感じがある(骨盤臓器脱のサイン)
- 入浴時に、腟の入り口にやわらかいふくらみを触れる
- トイレが近い、急に強い尿意がくる
- 便がもれる、おならを我慢しにくい
- 性交時に違和感や感覚の低下がある
これらは骨盤底筋の機能低下と関連することがあります。軽症であれば骨盤底筋トレーニングで改善が期待できますが、ふくらみがはっきり触れる・症状が強いといった場合は、ペッサリーや手術など別の治療が必要なこともあります。気になるサインがあれば、我慢せず受診してください。早めに相談することで、選べる治療の幅も広がります。
1日の取り入れ方の例
「まとまった時間がとれない」という方も、生活のなかに分けて組み込めば無理なく続けられます。以下は一例です。回数や強さは体調に合わせて調整してください。
| タイミング | 取り入れ方の例 |
|---|---|
| 朝 | 起きる前、あお向けのまま「締める・ゆるめる」を10回 |
| 日中 | 通勤電車やデスクワーク中に、座ったまま10回 |
| 夜 | 入浴後やテレビを見ながら、長めに締める動きを10回 |
まずは1日合計30回程度から始め、慣れてきたら回数や締める時間を少しずつ増やしていきます。続けることが何より大切なので、自分の生活リズムに合わせて「忘れにくいタイミング」に結びつけるのがコツです。
避けたいNG例
- お腹やお尻に力が入っている:骨盤底筋ではなく別の筋肉を使ってしまい、効果が出にくくなります
- 呼吸を止めて力む:腹圧が上がり逆効果になることがあります。呼吸は自然に続けます
- 排尿の途中で止める動作を繰り返す:やり方を覚える目的の一度だけにとどめ、習慣的に行うのは避けます
- 数日で効果がないとやめてしまう:効果判定は最低3か月。早すぎる中断はもったいないです
「正しく締められているか分からない」というのは多くの方が感じる不安です。医療機関では、骨盤底筋がきちんと動いているかを確認しながら指導でき、必要に応じてバイオフィードバックなどの補助も使えます。自己流で続けて効果が出ないときこそ、一度確認を受けると遠回りを防げます。
よくある質問(FAQ)
いつから効果が出ますか?
早い方では約2週間で実感することもありますが、通常は3か月〜半年で効果が現れることが多いとされています。最低3か月は継続して効果を判定しましょう。
どれくらいの頻度でやればいいですか?
1日30〜100回を目標に、できるときに分けて行うのがおすすめです。短く締める動きと長く締める動きを組み合わせ、呼吸は止めないようにします。
正しくできているか分かりません。
お腹・太もも・お尻に力が入っていると、骨盤底筋を正しく使えていないことがあります。医療機関では動きを確認しながら指導でき、バイオフィードバックなどの補助も利用できます。不安な場合はご相談ください。
尿もれは何科を受診すればいいですか?
女性の尿もれは婦人科・レディースクリニックで相談できます。中等度以上の場合は泌尿器科・ウロギネ専門医と連携して治療を進めます。
妊娠中や産後すぐに行ってもいいですか?
産後は1か月健診で許可を得てから始めるのが安心です。妊娠中の実施については個人差があるため、主治医に確認してください。
アプリやデバイスは効果がありますか?
バイオフィードバック装置や電気刺激療法などの補助的な方法があります。ただし基本は正しい手技の習得と継続です。気になる場合は受診時にご相談ください。
男性が行う意味もありますか?
はい。前立腺の手術後の尿失禁など、男性にも骨盤底筋トレーニングが役立つ場面があります。女性に限らず、骨盤底筋をきたえることは排尿のコントロールに有用と考えられています。
尿もれの相談は恥ずかしいことではありません
尿もれは、とてもよくある症状であるにもかかわらず、「人に言いにくい」「年齢のせいだから仕方ない」と感じて、相談をためらう方が多い悩みです。けれども、成人女性の4人に1人ほどが経験するとされるほど一般的で、婦人科では日常的に相談を受けている内容です。一人で我慢して外出や運動を控えてしまうと、生活の質(QOL)が大きく下がってしまうこともあります。
骨盤底筋トレーニングは、特別な道具がなくても、いつでもどこでも始められるのが大きな利点です。外見からは分からないため、人前でも実践できます。まずはセルフケアから取り組み、「正しくできているか不安」「3か月続けても変わらない」というときに専門家の評価を受ける——この順番で十分です。早く原因とタイプが分かるほど、改善への近道になります。気になる症状を抱えている方は、どうか一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。
まとめ
骨盤底筋トレーニングは、軽症の腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱に対する基本の保存療法です。正しいやり方で1日30〜100回、最低3か月続けることで、多くの場合に改善が期待できると考えられています。「年齢のせい」「手術しかない」とあきらめる前に、まずは正しいトレーニングから始めてみましょう。うまくできているか不安な方、効果が乏しい方は、レディースクリニックなみなみへお気軽にご相談ください。一人ひとりの症状やタイプに合わせて、トレーニング指導から必要な治療まで、ていねいにサポートいたします。
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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参考文献
- 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2023. 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会 (2023). https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00802/
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「尿失禁の治療」. https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%A9%A6%E4%BA%BA%E7%A7%91%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E7%94%A3%E7%A7%91/%E5%B0%BF%E5%A4%B1%E7%A6%81
- 病気がみえる vol.9 婦人科・乳腺外科 第2版 (MEDIC MEDIA, 2018).