執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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稽留流産は、自覚症状がないまま赤ちゃんの成長が止まり、子宮内にとどまっている状態をいいます。そして、その多くは赤ちゃん側の偶発的な染色体の問題によるもので、お母さんの行動が原因ではありません。妊婦健診の超音波で思いがけず告げられることが多く、深いショックと「自分のせいかもしれない」という自責の気持ちを抱えてしまう方も少なくありません。けれど、どうか自分を責めないでください。
突然のことに、頭の中が整理できないまま不安だけが大きくなっている方もいるかもしれません。この記事では、少しでも気持ちが落ち着き、これからのことを考える助けになるよう、次のことをやさしくお伝えします。
- 稽留流産とはどのような状態か(なぜ症状が出にくいのか)
- なぜ起こるのか(多くは「赤ちゃん側の偶然」であること)
- 流産の種類と、稽留流産の位置づけ
- 診断と、治療の選択肢(待つ方法・手術)
- 手術の流れと、術後の経過・次の妊娠について
- つらい気持ちとの向き合い方(心のケア)
- よくあるご質問(自分のせい?/次の妊娠は大丈夫? など)
稽留流産とは
稽留流産(けいりゅうりゅうざん)とは、胎芽(赤ちゃんのもと)や胎児がすでに育つのをやめてしまっているにもかかわらず、出血や腹痛などの症状がないまま、子宮の中にとどまっている状態です。妊娠22週より前に、超音波検査で「心拍が確認できない」「胎嚢の中に胎芽が見えない」ことで分かります。多くは、定期の妊婦健診の超音波で偶然見つかります。
自覚症状がないことが多い
- 出血や腹痛などの自覚症状がないことが一般的です
- つわりや乳房の張りといった妊娠初期症状が、ふと軽くなることがあります
- 少量の褐色のおりものがみられることもあります
症状がないために、本人は妊娠が順調に続いていると思っていることがほとんどです。だからこそ、健診で告げられたときの衝撃は大きく、戸惑うのは自然なことです。
なぜ起こるのか|多くは「赤ちゃん側の偶然」
自然流産は、妊娠全体の約15%に起こるとされ、決してまれなことではありません。そのうち約8割は妊娠12週未満の早期に起こり、その最も多い原因は、赤ちゃん(胎児)の偶発的な染色体異常です。これは受精の瞬間にたまたま起こるもので、お母さんの生活や行動、仕事、運動などが引き起こすものではないと考えられています。
| 原因 | 頻度の目安 |
|---|---|
| 胎児の染色体異常(最も多い) | 50〜80% |
| 母体のホルモン異常(黄体機能不全)など | 一部 |
| 子宮の形の異常・子宮筋腫など | 一部 |
| 感染症・自己免疫の関与(反復例) | まれ |
| 原因不明 | 10〜20% |
「あのとき無理をしたから」「あれを食べたから」と思い悩む方が多くいらっしゃいます。けれど、早期の流産の多くは、防ぎようのない偶然によるものです。どうか、ご自身を責めないでいただきたいと思います。
なお、流産の頻度は年齢が上がるとともに高くなることが知られています。これは卵子の老化にともない、受精の段階で染色体の問題が起こりやすくなるためと考えられています。これも「努力で防げるもの」ではなく、誰にでも起こりうる自然なことです。年齢を重ねてからの妊娠でも、多くの方が無事に出産を迎えていますので、過度に不安になりすぎないことも大切です。
流産の種類と稽留流産の位置づけ
「流産」とひとことで言っても、いくつかの状態があります。稽留流産は、その中でも「症状がないまま子宮内に残っているタイプ」にあたります。
| 種類 | 症状 | 状態 |
|---|---|---|
| 稽留流産 | 無症状 | 赤ちゃんが育つのをやめ、子宮内にとどまっている |
| 切迫流産 | 出血や軽い腹痛 | 心拍があり、妊娠を続けられる可能性がある |
| 進行流産 | 出血+陣痛のような腹痛 | 流産が進行している |
| 完全流産 | 出血が落ち着く | 子宮内容がすべて出た状態 |
| 不全流産 | 出血が続く | 子宮内容の一部が残っている |
切迫流産は、出血があっても心拍が確認でき、妊娠を続けられる可能性がある状態です。稽留流産とは異なるものなので、混同しないことが大切です。
どうやって診断する?
診断は主に経腟超音波検査で行います。胎芽の大きさや心拍の有無、胎嚢の状態を確認します。ただし、排卵が遅れていて週数の見立てがずれている場合などは、まだ心拍が確認できないだけということもあります。
- 胎嚢がある程度の大きさなのに胎芽が見えない場合や、胎芽が一定の大きさなのに心拍が確認できない場合に診断されます
- 判断が難しいときは、1〜2週間あけて再検査し、週数の数え間違いを慎重に除外します
- 必要に応じて、血液中のhCG(妊娠ホルモン)の推移も参考にします
「すぐに結論を出さず、もう一度確認しましょう」と言われることがあるのは、確実に診断するための大切な過程です。不安な待ち時間かもしれませんが、慎重に確かめてくれていると受け止めていただければと思います。
治療の選択肢
妊娠の継続が難しいと確定したあとは、今後の進め方を医師と相談して決めていきます。主な選択肢は次のとおりです。お気持ちや体の状態、生活の事情もふまえて、納得して選べるよう一緒に考えます。
| 方法 | 内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 待機療法 | 自然に排出されるのを待つ | 数日〜数週間。出血や痛みが起こることがある |
| 薬物療法 | 子宮収縮を促す薬を使う | 国内では保険適用が限られる |
| 子宮内容除去術(手術) | 子宮内の組織を取り除く | 確実に処置できる。日帰りで行えることが多い |
国内では、確実性の高さから子宮内容除去術が選ばれることが多くなっています。どの方法がよいかは一人ひとり異なりますので、不安や希望は遠慮なく医師に伝えてください。
手術(子宮内容除去術)の流れ
子宮内容除去術は、子宮の中に残った組織を吸引や掻爬(そうは)で取り除く処置です。妊娠12週より前であれば、多くは短時間ででき、当日に帰宅できることが一般的です。
- 麻酔(全身麻酔または局所麻酔)を用いるため、処置中の痛みは抑えられます
- 術後は感染を防ぐために抗菌薬が処方されることがあります
- しばらく出血が続くことがありますが、徐々に落ち着いていきます
- 強い出血や発熱があるときは、早めに受診してください
当院では手術に対応しています。施設によっては手術可能な医療機関へご紹介する場合もありますが、その際も安心して処置を受けられるよう連携してご案内します。
手術の前には、処置の内容やリスク、当日の流れについて十分な説明があります。不安な点や聞いておきたいことは、遠慮なく事前に質問しておきましょう。処置そのものは短時間で終わることが多く、当日に体調を確認したうえで帰宅となるのが一般的です。術後は無理をせず、体をいたわって過ごしてください。心の整理がつかないまま手術の日を迎えることもあるかと思いますが、その気持ちもふくめて、医療者に伝えていただいて構いません。
術後の経過と次の妊娠
「もう妊娠できないのではないか」と心配される方がいますが、子宮内容除去術を受けても、その後の妊娠の可能性が損なわれることは通常ありません。
- 単発の流産のあとでも、次の妊娠が成功する確率はおよそ80%と報告されています
- 術後は4〜6週間ほどで次の月経が再開することが多いです
- 次の妊娠の時期は、体と心の回復を見ながら医師と相談して決めましょう(通常は1〜3周期後から可能とされています)
- 次の妊娠に備えて、葉酸を1日400µgを目安に続けることがすすめられています
なお、流産を3回以上くり返す場合(あるいは2回でも年齢などの条件がある場合)は、「不育症」の観点から詳しい検査が検討されます。当院では、必要に応じて不育症の精査にも対応・連携しています。
流産後の心のケア
流産は、体だけでなく心にも大きな影響を与える出来事です。悲しみ、喪失感、自責の念——どんな気持ちを抱いても、それは大切な命と向き合った証であり、けっしておかしなことではありません。無理に前を向こうとせず、自分のペースで時間をかけてよいのです。
- つらい気持ちは、一人で抱え込まず、パートナーや信頼できる人に話してみましょう
- パートナーも同じように悲しんでいることがあります。お互いの気持ちを尊重しながら支え合えるとよいでしょう
- 気持ちの落ち込みが長く続く、眠れない、何も手につかないといったときは、医療者やカウンセラーに相談してください
- 同じ経験をした人の体験談や、自助グループとのつながりが心の支えになることもあります
流産のあとの心の揺れは、産後の気持ちの変化とも通じるものがあります。心のケアについては、産後うつ・心のケアの記事も参考になるかもしれません。次の妊娠に向けて前を向けるようになったときには、体外受精と出産予定日など、これからの妊娠についての情報もお役立てください。
周囲の方へ|どう支えればいい?
パートナーやご家族が流産を経験された方は、どんな言葉をかければよいか分からず、戸惑うことがあるかもしれません。大切なのは、無理に元気づけようとしたり、「次があるよ」と急かしたりするのではなく、まずはそのつらさをそのまま受け止めることだと考えられています。
- 「あなたのせいではない」と、くり返し伝えてあげてください
- 悲しむ時間を否定せず、そばにいて話を聞くだけでも支えになります
- パートナー自身も悲しみを抱えていることがあります。お互いの気持ちを分かち合うことが、回復の助けになります
- 家事や手続きなど、現実的な負担をそっと引き受けることも、大きな支えになります
悲しみの感じ方や立ち直りのペースは人それぞれです。「こうあるべき」という形はありませんので、その人のペースを尊重してあげてください。
受診の目安
稽留流産は症状が出ないことが多いため、定期的な妊婦健診を受けること自体が早期発見につながります。また、妊娠中に次のような変化があるときは、自己判断せず早めに受診してください。
- 妊娠初期に、つわりや乳房の張りなどの症状が急に軽くなった
- 少量でも出血や、茶色いおりものが続く
- 下腹部の痛みがある
- (治療後)強い出血・発熱・強い腹痛がある
これらは必ずしも流産を意味するわけではありませんが、確認しておくことで安心につながります。気になることがあれば、遠慮なくご相談ください。
よくある質問(FAQ)
稽留流産と言われましたが、どういう状態ですか?
赤ちゃんの成長が止まっているのに、出血や腹痛などの症状がないまま子宮内にとどまっている状態です。自覚症状がないため、妊婦健診の超音波で見つかることがほとんどです。
自分のせいでしょうか?
いいえ。早期の流産の多くは、赤ちゃん側の偶発的な染色体異常によるもので、お母さんの行動や生活が原因ではないと考えられています。どうかご自身を責めないでください。
手術を受けないといけませんか?自然に待つこともできますか?
待機療法(自然排出を待つ)、薬物療法、子宮内容除去術(手術)という選択肢があります。国内では手術が選ばれることが多いですが、体の状態やお気持ちをふまえて医師と相談して決められます。
次の妊娠はいつから可能ですか?
術後は4〜6週間ほどで月経が再開することが多く、その後、体と心の回復を見ながら次の妊娠が可能です。一般には1〜3周期後からとされますが、時期は医師と相談して決めましょう。
次の妊娠でも同じことが起きませんか?
単発の流産のあとでも、次の妊娠が成功する確率はおよそ80%と報告されています。多くは一度きりの偶然です。ただし3回以上くり返す場合は不育症の検査が検討されます。
つらい気持ちが続いています。どうすればよいですか?
流産後に深い悲しみを感じるのは自然なことです。一人で抱え込まず、パートナーや信頼できる人、医療者に話してみてください。気持ちの落ち込みが長く続くときは、遠慮なくご相談ください。
まとめ
稽留流産は、自覚症状がないまま赤ちゃんの成長が止まり、子宮内にとどまっている状態です。自然流産は妊娠の約15%に起こる決してまれではないことで、その多くは赤ちゃん側の偶発的な染色体異常によるもの——つまり、お母さんのせいではありません。治療には待機療法・薬物療法・手術の選択肢があり、お気持ちや体の状態に合わせて納得して選ぶことができます。術後も次の妊娠の可能性は通常保たれ、単発の流産後の次回妊娠成功率はおよそ80%と報告されています。
体の回復とともに、心の回復にも時間がかかるものです。どうか、ご自身のペースを大切にしてください。悲しみが癒えるまでの時間に「正解」はありません。レディースクリニックなみなみでは、診断から治療、術後のフォロー、そしてつらいお気持ちに寄り添う心のケアまで、あなたを一人にしないようサポートしています。次の妊娠への準備も含め、不安なことがあればいつでもご相談ください。
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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参考文献
- 病気がみえる vol.10 産科 第2版(MEDIC MEDIA, 2018)
- 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン 産科編2023」