執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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卵子凍結の費用はどのくらいかかるのでしょうか? 結論から言うと、卵子凍結には1回あたり約30~50万円程度の初期費用がかかり、さらに年間数万円ほどの保存料が必要になります。ただし費用は基本自費診療なのでクリニックや採取できる卵子の数によって変動し、複数回採卵する場合はその都度費用がかさむ点に注意が必要です。決して安くはない金額なので、「高額と聞くけれど実際どれくらい?」「年齢が上がる前に決断すべきか悩んでいる…」と不安に思われる方も多いでしょう。
将来の妊娠に備えて卵子凍結を検討している20~40代の女性に寄り添うために、本記事では費用面を中心に医学的根拠に基づく正確な情報をお届けします。費用の相場や内訳はもちろん、利用できる助成金制度についても解説します。読み終える頃には、卵子凍結についてご自身で納得のいく判断ができるようになるはずです。
この記事でわかること:
- 卵子凍結とは? 基本的な概要と目的(誰に向いているのか)
- 卵子凍結にかかる費用内訳:初期費用の相場と内訳、年間の保管料、将来使用時の費用
- 卵子凍結の流れ:排卵誘発から採卵・凍結までの具体的な手順
- 年齢と妊孕性の関係:適した年齢や卵子の質・数と成功率の関係(AMH検査に触れます)
- 助成金・保険適用など費用サポート:公的助成や自治体(例:東京都)の補助制度について
それでは、卵子凍結について一つひとつ見ていきましょう。
卵子凍結とは?簡単に説明すると
卵子凍結とは、女性の卵子(未受精卵)を採取して凍結保存し、将来の妊娠に備える生殖医療です。もともとは抗がん剤治療などで卵巣機能が低下する恐れのある患者さん向けに発達した技術ですが、近年では健康な女性が将来的な妊娠の選択肢を確保する目的で行う「社会的卵子凍結」にも注目が集まっています。体外受精(IVF:In Vitro Fertilization)などの不妊治療と同様に排卵誘発剤で卵巣を刺激して複数の卵子を育て、卵巣から卵子を採取しますが、その後受精は行わずに卵子のみを超低温で保存する点が体外受精と異なります。将来妊娠を望むときには、保存した卵子を解凍して精子と受精させ、胚(受精卵)を子宮に移植して妊娠を目指します。
卵子凍結は言わば「卵子のタイムカプセル」です。時間の経過による卵子の老化を防ぎ、若い時の卵子の質を保つことができると期待されています。実際、女性の妊娠率は30代後半から低下し始め、40歳を超えると卵子の染色体異常率が上がり流産率も高まることがわかっています。そうした中で「今はパートナーがいないけれど、いつか子どもが欲しい」「キャリアのため出産を先送りにしたい」という女性にとって、卵子凍結は将来の妊娠の可能性を広げる選択肢の一つとなっています。
卵子凍結にかかる費用はどれくらい?
卵子凍結を検討するうえでやはり最大の懸念材料が費用ではないでしょうか。ここでは卵子凍結の費用相場と内訳、および費用に影響するポイントを解説します。
卵子凍結の費用相場(初期費用と保管料)
卵子凍結の初期費用は、1回の採卵あたり約35万~55万円が目安です。この初期費用には以下のような内訳が含まれます。
| 費用項目 | 内容と費用目安 |
|---|---|
| 初診料・検査料 | 約5,000~10,000円(超音波検査・血液検査など) |
| 排卵誘発の薬剤費 | 約10~20万円(ホルモン注射や内服薬代) |
| 採卵手術費用 | 約15~25万円(採卵手技料、麻酔費用など) |
| 卵子の凍結手技料 | 約5~10万円(凍結処理料、凍結容器代など) |
| 合計(1回あたり) | 約35万~55万円 |
- ※上記はあくまで目安であり、実際の費用は医療機関ごとに異なります。例えば都市部の大規模クリニックでは地方より高め(1回あたり45~60万円程度)になる傾向があります。
- ※麻酔の種類や使用する薬剤、採取できた卵子の個数によって追加料金が発生する場合があります。
複数回採卵する場合の費用と変動要因
卵子凍結の費用は1回の採卵あたりで上述しましたが、目的の卵子数を確保するために複数回の採卵を行えば、その回数分だけ費用総額も増加します。特に30代後半以降の方は1回の採卵で得られる卵子数が少なくなる傾向があるため、十分な数の卵子を凍結するには2~3回の採卵を計画しておく必要があるかもしれません。その場合、単純計算でも合計費用は数十万円から100万円以上に及ぶ可能性があります。
費用に影響する主な要因は以下のとおりです。
採取できた卵子の数
医療機関によっては採卵数や凍結数に応じて加算料金が発生します。たとえば「卵子5個まで○円、以降1個ごとに追加○円」といった料金設定です。一方、卵子数に関わらず定額のクリニックもあります。
薬剤や処置内容
高刺激で大量の排卵誘発剤を使った場合や、麻酔の種類(全身麻酔か局所麻酔か)によって費用が変わる場合があります。持病などで特別な管理が必要な場合も追加費用につながることがあります。
地域や施設規模
前述のように都市部の有名不妊クリニックほど費用は高め、地方クリニックは比較的抑えめになる傾向があります。設備や人員体制、サービス内容の違いが反映されています。
将来凍結した卵子を利用する時に必要な費用
これは卵子凍結の「初期費用」ではありませんが、覚えておきたいポイントです。凍結した卵子を将来使って妊娠を試みる際には、解凍・受精・培養・胚移植の費用が別途かかります。目安として、卵子の解凍に約1~2万円、顕微授精(受精操作)に5~13万円、胚培養に5~11万円、胚移植に約8万円ほどが必要です。これは体外受精1サイクル分の費用と考えてよいでしょう。したがって卵子凍結後に実際に妊娠・出産するまでには、凍結時と同程度の費用がさらに必要になる可能性があることも覚えておきましょう。
卵子凍結の流れ:診療から採卵・凍結まで
卵子凍結はどのような手順で進むのでしょうか。基本的な流れを整理します。クリニックによって細部は異なりますが、概ね以下のステップで行われます。
事前検査・カウンセリング
卵子凍結を行う前に、ホルモン検査や超音波検査などで卵巣の状態(卵胞数やAMH値など)を評価します。医師から手順やリスクについて説明を受け、納得した上で同意します。
排卵誘発(卵巣刺激)
通常の自然周期では1個だけ成熟する卵子をできるだけ多く採取するため、排卵誘発剤(ホルモン剤)を使用して卵巣内で複数の卵子を育てます。注射や内服薬による刺激法は数種類あり、患者様の体質やスケジュールに合わせて選択されます。一般的に月経開始から約10日前後、毎日または数日の間隔で注射を続け、卵胞を複数発育させます。必要に応じて途中で超音波検査や血液検査を行い、卵胞の育ち具合を確認します。なお自然周期で排卵された卵子をそのまま採卵する方法(無刺激)もありますが、卵子が1個しか採れないため妊娠できる可能性が低く、時間とコストの面から現実的ではありません。そのため多くの場合は排卵誘発を行うことになります。
採卵(卵子の収集)
卵胞が十分に成熟したら、排卵前に卵子を採取する手術(採卵手術)を行います。膣から細い採卵針を卵巣に向けて刺し、卵胞液ごと卵子を吸引します。この際、経腟超音波で卵巣の位置を確認しながら慎重に進めます。採卵時は局所麻酔または静脈麻酔で痛みを軽減するのが一般的です。当日の所要時間は準備も含めて数時間程度で、日帰り可能な手術です。採取できた卵胞液はすぐに培養士が顕微鏡で確認し、中に含まれる卵子を回収します。この時点で卵子の成熟度もチェックされ、受精可能な成熟卵のみを凍結保存の対象とします。(未成熟の卵子は基本的に凍結せず破棄されます。)
卵子の凍結保存
回収された成熟卵子は、直ちに超低温下で凍結保存されます。現在は「超急速ガラス化法(vitrification法)」と呼ばれる方法が主流で、卵子内部に特殊な凍結保護液を浸透させたうえでマイナス196℃の液体窒素に瞬時に浸します。これにより氷の結晶が形成されるのを防ぎ、凍結による細胞ダメージを最小限にします。ガラス化技術の確立により、凍結・解凍後の卵子は90~97%と高い生存率を示すとの報告があります。凍結卵子は専用の保存容器(ストロー)に収められ、液体窒素タンク内で厳重に管理・保管されます。あとは将来の妊娠のタイミングまで卵子を預けておき、必要になったときに解凍・受精させて体内に戻す**ことになります。
以上が卵子凍結の一連の流れです。期間としては、月経開始から採卵まで約2週間前後、採卵後は当日帰宅できるものの、体調が落ち着くまで数日間は無理をしないようにします。卵巣刺激で一時的に卵巣が腫れる影響で下腹部の張りや軽い痛みを感じることがありますが、ほとんどの場合は数日で改善します。稀に採卵時に出血や感染症が起こることもありますが、いずれも頻度は低く適切に対処されます。
卵子凍結の費用サポート:助成金・保険適用はある?
高額な費用がネックとなる卵子凍結ですが、公的な助成制度や保険適用の有無も気になるところでしょう。ここでは現在利用できる助成金や費用補助策について説明します。
公的助成金・補助金制度
現在、社会的理由で行う卵子凍結(いわゆる「社会的卵子凍結」)には、国の公的助成はまだありません。不妊治療(体外受精等)は2022年4月から保険適用となりましたが、将来の妊娠に備えるための卵子凍結は「現時点で治療の必要があるわけではない」ため保険の対象外となっています。従って費用は基本的に全額自己負担です。
しかし、一部自治体や企業が独自の支援を始めています。中でも注目なのが東京都の卵子凍結費用助成制度です。東京都は2023年、全国に先駆けて社会的卵子凍結への助成事業を開始しました。対象となるのは東京都在住の18~39歳の女性(採卵日での年齢が条件)で、一定の手続きを踏めば卵子凍結1回につき最大20万円、さらに継続保管に対し年2万円(最長5年間)の補助が受けられます。トータルでは最大30万円(令和5年度に凍結した場合)まで支給される計算です。※令和6年度以降は年数経過に伴い上限額が少しずつ減りますが、それでも相当な助けになります。助成を受けるには事前にオンライン説明会への参加や都の指定医療機関での実施など細かい条件がありますが、「費用ハードルで諦めていたけど助成が出るなら挑戦したい」という方には大きな追い風と言えるでしょう。なお東京都以外でも、自治体レベルで独自に卵子凍結の助成を検討・実施する動きが出てきています。お住まいの地域の最新情報を確認してみてください。
また医学的適応(がん患者など)の場合は、国の支援事業があります。「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」で、43歳未満のがん患者等が卵子凍結を行う際に1回あたり最大20万円(通算2回まで)の助成が国から受けられます。さらに、その凍結卵子を将来使って体外受精する際にも1回あたり25万円(40歳未満なら最大6回まで、40~43歳は最大3回まで)の助成が用意されています。これは病気治療による生殖機能喪失を防ぐための公的支援であり、社会的適応とは区別されています。もし持病や治療のために卵子凍結を検討している場合は、主治医や自治体に確認してみましょう。
民間のサポートや保険適用状況
民間企業でも、福利厚生として従業員の卵子凍結費用を補助する動きが少しずつ出てきています。特に外資系IT企業などで「女性がキャリアと出産を両立しやすいように」と福利厚生の一環で卵子凍結をサポートする例があります。日本ではまだ限定的ですが、「福利厚生に卵子凍結サポートがある会社に就職したい」という声が出始めており、今後広がる可能性があります。
一方、医療保険や民間保険によるカバーについては、2025年現在ほとんどありません。生命保険の特約などで不妊治療費を支給する商品はありますが、卵子凍結がその範囲に含まれるケースは稀です。基本的には自己資金または自治体の助成に頼ることになります。
まとめると、卵子凍結は保険適用外だが、公的助成や一部企業の支援制度が利用できる可能性があるという状況です。費用面で悩んでいる方は、お住まいの自治体の助成制度(特に東京都在住なら積極的に活用を)や勤務先の福利厚生を是非チェックしてみてください。また将来的に国による支援拡大が期待されていますので、最新情報のアップデートも大切です。
卵子凍結に関するFAQ(よくある質問)
最後に、卵子凍結について皆さんが疑問に思いやすいポイントをQ&A形式でまとめます。
卵子凍結をするだけで将来妊娠できますか?
卵子凍結自体は将来の妊娠「可能性」を残す手段であり、凍結するだけで妊娠できるわけではありません。凍結した卵子を使って実際に妊娠するためには、将来その卵子を解凍し、体外受精(顕微授精)で受精卵を作って子宮に移植するというプロセスが必要です。将来的に必ず不妊治療(胚移植までの処置)を経て初めて妊娠が成立することになります。凍結のために卵巣を一部切除するわけではなく、通常は毎月排卵して消えていく卵胞の中から複数を一度に育てて回収するだけなので、卵子凍結を行っても体内に残る卵子が減って自然妊娠しにくくなることはありません。あくまで「将来の保険」として卵子を保存しておき、実際には自然妊娠できればそれが一番良い、というスタンスで構いません。
年齢によって費用は変わりますか?
基本的に年齢そのものが料金に影響することはありません。クリニックの費用設定は年齢ではなく処置内容(採卵数や薬剤量など)によって決まります。ただし実際問題として年齢が高くなるほど1回の採卵で取れる卵子の数が減る傾向があり、目標の卵子数を確保するため複数回チャレンジするケースが増えるため、結果的にトータル費用は年齢が上がるほど高くなりやすいと言えます。日本生殖医学会の指針では40歳以上での卵子凍結は非推奨です。多くの施設で受け入れ年齢に上限(例えば~42歳まで等)を設けていますし、仮に40代で希望されても卵子が得られなかったり質的に難しいことが多いため、事実上40歳を過ぎると費用を払っても実施できない可能性が高いでしょう。
凍結した卵子はどれくらい保管できますか?期限はありますか?
凍結卵子そのものには明確な保管期限はありません。最新のガラス化保存法では、凍結した状態で品質が劣化することはほぼないと考えられています。現に20年以上凍結保存された精子や胚で出生した例も報告されています。ただし前述のように卵子を使う側の年齢制限(事実上45歳前後まで)があるため、現実的にはその時点までの保管となります。東京都の助成事業でも、凍結後毎年の調査協力が義務付けられており、将来的に長期放置された凍結卵子はしかるべき手続きを経て整理されるかもしれません。いずれにせよ、基本的にはご自身が望む限り長期保存は可能ですが、凍結したことに満足せず、適切な時期が来たら計画的に活用することをおすすめします。
卵子凍結は保険が効かないとのことですが、何か費用支援はないですか?
残念ながら社会的理由での卵子凍結は公的医療保険の適用外です。費用は全額自己負担となります。ただし先述のように地方自治体の助成制度が利用できる場合があります。特に東京都在住で18~39歳の方は、卵子凍結1回につき最大20万円、保管更新で最大計30万円の助成を受けられる制度があります。他にも自治体によっては独自の補助金を出していることがありますので、まずはお住まいの市区町村の情報を確認してください。企業が費用負担してくれるケース(福利厚生)も一部あります。いずれにせよ公的保険は効かないため大部分は自費となりますが、利用できる助成や控除は積極的に活用して少しでも負担軽減を図りましょう。
卵子凍結だけしておいて、使わずに終わることもありますか?
はい、十分あり得ます。卵子凍結は将来の選択肢を広げる手段ですが、実際にその卵子を使うかどうかはその後の人生次第です。例えば凍結後に自然妊娠・出産できた場合や、そもそもやっぱり子どもを持たない選択をした場合、凍結卵子は使わずに保管期間を終えることになります。ある海外の調査では、社会的卵子凍結を行った女性のうち実際に卵子を解凍・使用した人はごく一部という報告もあります。これはネガティブな意味だけではなく、卵子凍結して安心感を得たことで、その後落ち着いてパートナー探しや他の選択ができたというポジティブな側面もあります。使わずに終わった卵子については、最終的に本人の同意のもと廃棄処分されるか、研究用などに提供される場合もあります。
以上、卵子凍結の費用を中心に、そのメリット・デメリットや進め方について詳しく解説しました。卵子凍結は画期的な技術ですが、誰にでも無条件で勧められるものではありません。費用や体力・時間、そして将来のライフプランなど総合的に考えて決断する必要があります。本記事の情報がお役に立ち、少しでも不安の解消につながれば幸いです。卵子凍結に関心のある方は、ぜひ専門クリニックの門を叩いてみてください。当院でもAMH検査や卵子凍結のご相談を随時承っております。あなたの将来の選択肢を一緒に考えるパートナーとして、お気軽にご相談ください。
参考文献・情報源
卵子凍結に係る費用等 助成開始 – 東京都福祉局(東京都福祉局プレスリリース, 2023)
ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ – 日本産婦人科学会
卵子凍結について– 東京都福祉局
The impact of oocyte vitrification on offspring: a systematic review – Reproductive Sciences / Springer
Evidence-based outcomes after oocyte cryopreservation for donor oocyte in vitro fertilization and planned oocyte cryopreservation: a guideline – Fertility and Sterility / ASRM Practice Committee
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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保存料(保管料)も考慮が必要です。卵子を凍結保存している間は、年間で約2~3万円程度の保管料金をクリニックに支払うのが一般的です。保存容器1本あたりの料金で設定されていることが多く、容器1本に2~3個の卵子を保存できるケースでは卵子2~3個につき年間2~3万円という計算になります。一部の施設では「3年間で卵子1個あたり1万円」など独自の料金体系を採用している場合もあります。いずれにせよ、凍結卵子を預けている限り毎年維持費がかかる点は念頭に置きましょう。