
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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不妊治療において、女性の体についてより詳しく調べるために、専門的な検査を行うことがあります。たとえば「卵管検査」では、卵子と精子が出会う場所である卵管がしっかり通っているかを確認します。さらに「子宮の検査」では、子宮鏡や超音波を使って子宮の中を丁寧に調べます。子宮内膜ポリープや筋腫など、受精卵が着床するのを妨げる原因がないかを確認することができます。また不妊の原因は、女性だけでなく男性側にあることも少なくありません。そのため、まず行われる大切な検査のひとつが「精液検査」です。精子の数や動き、形を確認することで、自然妊娠の可能性や今後の治療の方向性を考える手がかりになります。
このように、さまざまな検査を組み合わせることで、不妊の原因をより広く、そして具体的に見つけていくことができます。結果を知ることで不安になることもあるかもしれませんが、それぞれの検査には必ず意味があり、前に進むための大切なステップとなります。
前編では一般的な不妊治療の検査項目を説明しています!こちらから。
卵管検査(子宮卵管造影検査など)
卵管検査って何を調べるの?
卵管が通っているか(卵管通過性)や子宮の形状を調べる検査です。不妊原因の中でも、卵管の詰まりや子宮の癒着は大きな割合を占めます。この検査では子宮に造影剤を注入し、X線または超音波で子宮から卵管にかけて造影剤がきちんと流れるかを観察します。月経終了後〜排卵日前の清潔な時期に行うのが一般的です。造影剤の流れ方で卵管の詰まり具合や子宮内部の形の異常(子宮奇形や癒着など)も確認できます。類似の検査に、造影剤ではなく生理食塩水と超音波を用いる通水検査もあり、こちらも卵管の通りを調べる目的で行われますが観察している部分は同じです。
卵管検査
検査結果 | 結果の解説 |
正常 | 卵管が通っていて問題ありません。 |
近位部閉塞 | 子宮に近い部分の卵管が詰まっています。卵子や精子の通り道がふさがれているため、自然妊娠が難しくなることがあります。 |
遠位部閉塞 | 卵巣に近い部分の卵管が詰まっています。卵子が卵管に入れず、受精ができにくい状態です。 |
卵管采周囲の癒着 | 卵管の先端が癒着していて、卵子をうまく取り込めないことがあります。自然妊娠に影響することがあります。 |
卵管水腫 | 卵管が詰まって水がたまっている状態です。妊娠しにくい原因になるだけでなく、体外受精にも影響することがあります。 |
検査結果の読み解き方
卵管が正常であれば、卵子と精子が通る道に問題がなく、自然妊娠の可能性があります。一方、卵管のどこかが詰まっている場合は、卵子や精子が出会えず受精が難しくなることがあります。詰まりの場所や程度によって妊娠への影響は異なり、例えば卵管の先端が癒着していたり、水がたまる卵管水腫があると自然妊娠だけでなく体外受精にも影響することがあります。ただし異常が見つかっても、手術や体外受精などの方法で妊娠を目指すことは可能ですので、結果は医師と一緒に確認しながら治療方針を決めていきましょう。
超音波(経腟エコー)検査
超音波(経腟エコー)検査って何を調べるの?
経腟エコーは、細い超音波の機械を膣から挿入して子宮や卵巣の状態を確認する検査です。不妊治療において最も基本的でよく使われる検査のひとつで、被ばくもなく体への負担が少ないのが特徴です。この検査では、子宮の形や内膜の厚さ、卵巣の大きさや卵胞の発育の様子を調べることができます。排卵の有無やタイミングの確認、卵巣に嚢胞や腫れがないかのチェックにも役立ちます。また、治療の過程では卵胞がどのくらい育っているか、子宮内膜が妊娠に適した状態かを繰り返し観察するために用いられます。短時間で繰り返し行える検査なので、不妊治療において欠かせない検査のひとつです。
超音波検査で確認すること
検査で見られる所見 | 結果の解説 |
正常(子宮・卵巣に明らかな異常なし) | 子宮の形や大きさ、卵巣の状態に問題がなく、妊娠に適した状態と考えられます。 |
子宮内膜の厚さが薄い | 子宮内膜が十分に厚くならず、着床しにくい可能性があります。 ホルモン補充などで改善を図ることがあります。 |
卵胞の発育が確認できる | 卵巣内に卵胞が育っている様子が見られ、排卵が近いことを示します。 |
卵胞が育たない/小さいまま | 排卵が起こりにくい可能性があります。排卵誘発剤などの治療が検討されます。 |
卵巣嚢胞や腫れがある | チョコレート嚢胞(子宮内膜症)や多嚢胞性卵巣(PCOS)などの可能性があり、妊娠に影響することがあります。 |
ネックレスサイン(卵巣の周囲に小さな卵胞が多数並んでいる) | PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の疑いがあります。排卵が起こりにくく、不妊や月経不順の原因となることがあります。 |
精液検査
精液検査は受けたほうがいい?何を調べるの?
男性の精液検査は、妊活において重要な検査項目です。不妊の原因の50%は男性側の因子にあると言われています。
男性も事前に検査を行いパートナー双方の状態を知ることは、妊活を始める第一歩として非常に大切な意味を持っています。
精液検査には複数の機関からの基準数値があり、以下はWHO(世界保健機関)・日本産科婦人科学会が定めた精液検査の基準値です。
検査を受けるクリニックによって基準値が変わることがありますが「WHO第6版(2021)基準下限」は近年改訂され一部項目が緩和された数値基準となっております。
精液検査
検査項目 | 参考基準値 | WHO第6版(2021) 基準下限 |
精液量 | 1.5ml以上 | 1.4ml以上 |
精子濃度 | 20百万/ml以上 | 16百万/ml以上 |
総精子数 | 40百万/射精以上 | 39百万/射精以上 |
運動率 (総運動率) | 40%以上 | 42%以上 |
前進運動率 | 32%以上 | 30%以上 |
正常形態精子率 | 4%以上 | 4%以上 |
pH率 | 7.2以上 | 7.2以上 |
白血球率 | 100万/ml未満 | 100万/ml未満 |
- 精液量:
精液の量を調べます。数値が少なすぎると、精嚢や前立腺の分泌低下、射精管の閉塞、あるいは逆行性射精の可能性があります。 - 精子濃度:
1mlあたりに含まれる精子の数を調べます。数値が低すぎると、造精機能の低下(精巣障害、精索静脈瘤、過去の炎症や治療歴など)や、ホルモン異常、遺伝的要因が関与している可能性があります。 - 総精子数:
1回の射精に含まれる精子の総数を調べます。数値が少なすぎる場合、精液量や精子濃度がともに低下している可能性があり、造精機能障害や射精障害が背景にあることがあります。 - 運動率(総運動率・前進運動率):
精子がしっかり動いているかを調べます。数値が低すぎると、精子無力症と呼ばれる状態で、精索静脈瘤、炎症や酸化ストレス、抗精子抗体の存在などが原因となることがあります。 - 正常形態精子率(Kruger基準):
正常な形をした精子の割合を調べます。数値が低すぎると、奇形精子が多い状態で、受精能力が下がっている可能性があります。精巣障害や生活習慣、遺伝子の異常が関与することがあります。 - pH値:
精液の酸性・アルカリ性のバランスを調べます。数値が低すぎて酸性に傾くと、精嚢や射精管の閉塞が疑われ、精子の生存環境が悪化している可能性があります。 - 白血球数:
精液中に含まれる白血球の数を調べます。数値が多すぎると炎症や感染(前立腺炎や精巣上体炎など)が考えられ、精子の運動や機能に悪影響を与えることがあります。
検査結果の受け取り方
検査結果でなにか所見があっても、必ずしも妊娠が難しいことを意味するわけではありません。たとえば小さな子宮筋腫や卵巣嚢胞は経過観察のみで問題ないことも多く、治療が必要になるのは大きさや場所によって妊娠や月経に影響が出る場合です。精液検査においても、一時的な体調や採取状況で数値が変動することがあり、必ずしも異常と断定できるわけではありません。
一方で、繰り返し同じ所見が出る場合や、症状を伴う場合には追加検査や治療が勧められることがあります。結果はあくまで今の状態を知るための目安であり、主治医と相談しながら「経過をみてよいのか」「早めに治療や検査を進めた方がよいのか」を一緒に判断していきましょう。

執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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