執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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妊娠中、「薬を飲んでも大丈夫かな?」という不安は多くの妊婦さんが抱えるものです。特に初めての妊娠では、ちょっとした風邪や頭痛でも赤ちゃんへの影響が心配で、薬に頼って良いのか迷ってしまいますよね。基本的な考え方として、妊娠中は必要最低限の薬に留め、自己判断で市販薬をむやみに服用しないことが大切です。しかし同時に、「我慢しすぎてお母さんの体調が悪化すること」が赤ちゃんにとってリスクになる場合もあります。安全とされる薬を適切に使えば、母体と胎児双方にメリットがあるケースもあります。
この記事では、妊娠中でも医師の指示のもとで使用されることがある薬(=比較的安全と考えられる薬)を、症状・疾患別にまとめます。同時に、妊娠中は使用を避けるべき薬や注意点についても触れ、妊婦さんの「何を飲んでいいの?」という不安を解消できるようやさしく解説します。薬のリストを見るときは「自己判断せず、必ず専門家に確認すること」「妊娠の週数や体調によって適切な薬は変わること」を忘れないようにしてくださいね。
妊娠中の薬選びのポイントは?
妊娠中に服用する薬を選ぶときは「情報源を正しく探すこと」と「かかりつけの医師に相談すること」です。
またインターネット上には様々な情報があふれますが、検索する際は「〇〇(薬品名) 添付文書」で検索してみましょう。公式な情報で「禁忌」として妊娠中の服用に注意書きがされている場合は注意が必要です。妊娠週数によって薬の影響が変わることも知っておきましょう。特に妊娠初期(妊娠4〜12週頃)は赤ちゃんの器官形成が行われるデリケートな時期で、薬の使用はより慎重になる必要があります。妊娠後期(28週以降)は、薬の成分が胎盤を通して胎児に移行しやすくなり、一部の薬剤は胎児の発育や分娩に影響を及ぼす可能性が高まるため注意が必要です。
風邪(かぜ)を引いたとき
よくある症状(風邪の主な症状)
- 鼻水・鼻づまり、くしゃみ
- のどの痛み、咳(せき)
- 発熱、寒気、全身のだるさ
一般的に処方されることがある主な薬(成分名 ※商品例)
アセトアミノフェン(商品例:カロナール)
解熱鎮痛薬。発熱やのどの痛み、頭痛などの緩和に使用されます。
デキストロメトルファン(商品例:メジコン)
鎮咳薬。咳を鎮める作用があり、妊娠中でも昔から使われている成分です。
カルボシステイン(商品例:ムコダイン)
去痰薬。痰(たん)を出しやすくする薬で、妊娠中に使用しても問題ないとされています。
アンブロキソール(商品例:ムコソルバン)
去痰薬。同じく痰を切れやすくする薬で、妊婦さんにも必要に応じて使われます。
クロルフェニラミンマレイン酸塩(商品例:ポララミン)
抗ヒスタミン薬。くしゃみ・鼻水などの症状に用いられ、比較的古くから妊娠中にも使用されています。
トラネキサム酸(商品例:トランサミン)
出血を抑える薬。喉の痛みを抑える目的で使用されます。自費診療では美白目的でも用いられます。
SPトローチ
口腔内用殺菌剤。咽頭炎、扁桃炎、口内炎、抜歯創を含む口腔創傷の感染予防に用いられます。
アズノールうがい液
アズレンスルホン酸ナトリウム水和物を主成分とする青い液体のうがい薬で、喉や口内の炎症を抑え、傷の治りを早める。
妊娠中の注意点
風邪の症状に対して妊娠中に薬を使う場合
市販の総合感冒薬(複数の有効成分が入った風邪薬)を自己判断で飲むことは避けましょう。総合感冒薬には解熱剤・鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、カフェインなど様々な成分が含まれます。その中には妊娠中の使用に注意が必要なものもあるためです。典型的な総合感冒薬であるPL配合顆粒(サリチルアミド・アセトアミノフェン・カフェイン・プロメタジン配合)は、医師から処方される分には妊娠中でも問題ないとされていますが、市販の同種薬を含め 素人判断での服用は控えてください。まずは産婦人科を受診し、必要な成分のみを処方してもらうのが安心です。
妊娠期間に応じた注意点
妊娠初期(特に妊娠5〜12週)は赤ちゃんの器官形成期にあたります。この時期はできるだけ薬に頼らず、症状が軽い風邪ならまず安静・水分補給などで様子を見ることが基本です。発熱がある場合は室温調整や冷タオルで熱を冷まし、のどの痛みにはうがいや温かい飲み物でケアしましょう。どうしてもつらい高熱(38℃以上)や激しい咳が続くときは、我慢しすぎず医師に相談してください。高熱そのものが胎児に影響することもあるため、必要に応じてアセトアミノフェンなど安全とされる解熱剤で熱を下げることもあります。
妊娠中期〜後期に入ると、胎盤を通して薬の成分が赤ちゃんに届きやすくなります。カフェインを含む薬や、交感神経刺激作用のあるエフェドリン類(鼻づまりを取る成分、例:プソイドエフェドリン)は胎盤を通じて胎児に影響する可能性が指摘されていますので、妊娠中は避けたほうがよいでしょう。鼻づまりがつらい場合は、蒸しタオルで鼻周囲を温める、生理食塩水の点鼻をするなど薬に頼らない工夫ができます。市販の点鼻薬を使う場合も、ごく少量・短期間に留め、なるべく医師や薬剤師に確認してください。
漢方薬について
漢方薬=安全というわけではありません。妊婦さんに処方されることもある漢方薬はありますが、中には葛根湯のように麻黄(マオウ)という生薬由来のエフェドリン成分を含み、子宮収縮を誘発する可能性があるため妊娠中は推奨されないものもあります。一方で、妊婦さんの体質や症状に合わせて香蘇散(こうそさん)や麦門冬湯(ばくもんどうとう)など比較的マイルドな漢方が処方されるケースもあります。いずれにせよ漢方薬も「薬」であり、副作用や胎児への影響がゼロではありません。自己判断で市販の漢方を飲まず、必ず専門医に相談しましょう。
のどのケアについて
うがい薬を使用する場合に注意が必要です。一般的なイソジン®などポビドンヨードを含むうがい薬を頻繁に使うと、ヨウ素を過剰に取り込むことになり、胎児の甲状腺機能に影響する可能性があります。通常の使用量であれば問題ないとされていますが、妊娠中は念のためヨウ素系のうがい薬を長期連用しないようにしましょう。代わりに塩水うがいや、市販でもヨウ素を含まないうがい薬(緑茶成分配合のもの等)を選ぶと安心です。
発熱・頭痛があるとき
よくある症状
- 発熱(風邪や感染症による38℃前後の熱)
- 頭痛(偏頭痛、緊張型頭痛など)
- 悪寒、関節の痛み(発熱に伴う症状)
一般的に処方されることがある主な薬
アセトアミノフェン(商品例:カロナール、タイレノールA)
解熱鎮痛薬。妊娠中の発熱や痛みに対して第一選択薬とされます。通常用量を短期間用いる範囲では胎児への影響はないとされています。
※発熱や痛みへの薬は妊娠中には非常に限られ、基本的にアセトアミノフェン一択と考えて良いでしょう。妊婦に使用できる市販の頭痛薬も、現実的にはアセトアミノフェン含有の「タイレノール」くらいです。
妊娠中の注意点
妊娠中の発熱や頭痛にはアセトアミノフェン(パラセタモール)が安全と考えられています。欧米や日本の大規模研究でも、適切な範囲でのアセトアミノフェン使用による有害性は否定的であり、妊娠中でもこれまで通り使用可能とされています。ただし「薬であること」に変わりはありません。添付文書上も妊婦への投与は「治療上の有益性が危険性を上回る場合に限定」とされていますので、念のため必要最低限の服用に留めましょう。服用前に心配なことがあれば主治医や薬剤師に相談してください。
一方、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)と呼ばれる痛み止め(市販薬ではイブプロフェン配合のイブ、ロキソプロフェン配合のロキソニンSなど)は妊娠後期(28週以降)には絶対に避けるべき薬です。これらは胎児の腎機能に影響して尿量を減少させ、結果的に羊水過少を引き起こすリスクが報告されています。また胎児の動脈管収縮を招き、肺高血圧など出生後のトラブルにつながるおそれもあります。そのため妊娠8か月以降はロキソニン・イブなどは服用禁止(禁忌)とされています。
妊娠期間に応じた注意点
妊娠中期(妊娠5〜7か月頃)までのNSAIDs使用については、催奇形性(奇形のリスク)は高くないものの、可能であれば避けるに越したことはありません。例えばイブプロフェンやアスピリンを妊娠初期に頻繁に使用すると流産率がわずかに上昇するとの指摘もあります。いずれにせよ頭痛がつらい時はまず安静・睡眠を十分にとる、こめかみを冷やすor温める(ご自身に合う方で)など薬に頼らない緩和策を試しましょう。それでも耐え難い場合にアセトアミノフェンを適切な量で服用することはできますが、自己判断でNSAIDs系の市販鎮痛薬を使うのは避けてください。
高熱が出た場合
高熱が出た場合は、妊娠週数に関わらず放置しないことが大切です。特に39℃以上の高熱が続くと脱水や代謝亢進で母体に負担がかかり、胎児にも影響し得ます。冷却や水分補給を行っても下がらない高熱時は、早めに産科に連絡し指示を仰いでください。医師の判断でアセトアミノフェン坐薬などが処方されることもあります。発熱の原因がインフルエンザの場合、妊娠中でもオセルタミビル(タミフル®)等の抗インフルエンザ薬を使用できます。インフルエンザ治療薬は妊娠初期に使用しても先天異常の発生率を上げないと報告されていますし、むしろ重症化を防ぐメリットのほうが大きいため、遠慮なく治療を受けてください。
片頭痛
よくある症状
- 頭痛:生活に支障をきたすほど強い痛みなのが特徴
- 光・音・匂いに敏感になる
- 吐き気・嘔吐を伴う
- 前兆(閃輝暗点など):頭痛の前に視界にキラキラしたものが見えたり、言葉が出づらくなったりする
一般的に処方されることがある主な薬
トリプタン製剤(商品例:イミグラン〈成分スマトリプタン〉、マクサルト〈リザトリプタン〉、レルパックス〈エレトリプタン〉等)
片頭痛発作の治療に用いられる鎮痛薬。特にイミグラン(スマトリプタン)は使用歴が古く、妊婦への安全性も確立されているため、第一選択となります。
アセトアミノフェン(商品例:カロナール、タイレノール)
一般的な解熱鎮痛薬として、妊婦に多く使用される薬剤です。
呉茱萸湯(ゴシュユトウ)
片頭痛発作を予防する作用のある漢方薬。子宮収縮作用の懸念から、絶対に安全とは言い切れないですが、他の片頭痛予防薬(プロプラノロール、バルプロ酸、ミグシスなど)と比べると安全性は高く、妊婦に処方されることがあります。
CGRP関連製剤(商品例:エムガルティ〈成分ガルカネズマブ〉、アジョビ〈成分フレマネズマブ〉、アイモビーグ〈成分エレヌマブ〉等)
2021年に発売された片頭痛の予防注射薬です。新規の薬剤な分、歴史の古い薬に比べて妊婦への安全性が確立されているとは言い難いですが、片頭痛に対して非常に効果的な薬であり、妊婦に対して処方される例も増えています。頭痛外来等で処方された場合、安心して使用していいと考えます。
呼吸器系の症状(咳・喘息・アレルギー)
よくある症状
- 長引く咳(風邪の後に咳だけ残る、気管支炎など)
- 喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒューする息苦しさ)(気管支喘息の発作)
- 鼻水・鼻づまり(アレルギー性鼻炎、花粉症などによる)
- 呼吸器の感染症(気管支炎・肺炎による咳や発熱、痰が絡むなど)
一般的に処方されることがある主な薬
サルブタモール吸入薬(商品例:ベネトリン吸入薬)
気管支拡張薬(吸入式)。喘息発作時の救急薬として、妊娠中でも使用されます。吸入ステロイド等と併用し、まず母体の呼吸を安定させることが優先されます。
吸入ステロイド薬(商品例:ベクロメタゾン〔キュバール吸入〕、ブデソニド〔パルミコート吸入〕)
気管支喘息のコントローラー(予防薬)。これらの吸入薬は気道で局所的に作用し、全身への吸収はごく一部です。妊娠中でも喘息の制御に必要な場合は継続使用が推奨されます。
モンテルカスト(商品例:シングレア錠、キプレス錠)
抗アレルギー薬(ロイコトリエン受容体拮抗薬)。喘息やアレルギー性鼻炎の治療薬で、妊娠中でも安全域の広い薬として位置付けられています。
第一世代抗ヒスタミン薬(商品例:ポララミン錠〈成分クロルフェニラミン〉等)
昔からある抗ヒスタミン薬で、妊娠中にも使われることがあります。眠気は強いですが、胎児への明確な悪影響は報告されていません。鼻水・くしゃみがひどい時に頓用されることがあります。
第二世代抗ヒスタミン薬(商品例:アレグラ錠〈成分フェキソフェナジン〉、アレロック〈成分セチリジン〉ジルテック〈成分セチリジン〉、クラリチン〈成分ロラタジン〉ザイザル〈成分レボセチリジン〉等)
アレルギー性の鼻炎や蕁麻疹、花粉症に用いられる抗アレルギー薬。眠気が少ないタイプで、海外でも妊娠中に広く使われており安全性が高いとされています。
ペニシリン系抗生物質(商品例:サワシリンカプセル〈成分アモキシシリン〉、オーグメンチン配合錠〈成分アモキシシリン、クラブラン酸〉等)
細菌性の気管支炎や肺炎に対し処方される抗生剤。ペニシリン系は比較的安全性が高く、必要な場合は妊婦にも用いられます。
セフェム系抗生物質(商品例:フロモックス錠〈成分セフカペンピボキシル〉、メイアクトMS〈成分セフジトレン〉セファゾリン、セフトリアキソン等)
抗生剤の一種で、ペニシリン系同様に妊娠中でも使用経験が豊富です。肺炎や副鼻腔炎などで必要と判断された場合に使われます。
マクロライド系抗生物質(商品例:クラリスロマイシン錠〈クラリス〉、ジスロマック〈アジスロマイシン〉等)
抗生剤の一種。これも比較的安全とされるため、ペニシリン系にアレルギーがある妊婦さんなどに用いられます。
妊娠中の注意点
呼吸器の症状に対して妊娠中に薬を使う場合
喘息持ちの妊婦さんは、「妊娠したから」と自己判断で喘息薬を中断しないでください。 喘息発作で十分に酸素が取り込めなくなることの方が胎児にはるかに有害です。吸入ステロイドや吸入の気管支拡張薬(β刺激薬)は妊娠中も必要最小限であれば安全に使用できるとされています。妊娠前からコントロール良好であった持病の喘息治療は、そのまま続けることが推奨されます。主治医と相談しながら、吸入薬を正しく使って発作を予防しましょう。
咳止めについて
先述のデキストロメトルファン(メジコンなど)が比較的安全に用いられます。一方でリン酸コデイン(麻薬系鎮咳成分)は胎盤を通過しやすく、妊娠末期に服用すると新生児に呼吸抑制や離脱症状を引き起こす恐れがあります。コデイン配合の咳止め(例:市販の「〇〇コデ」など名称にコデイン系が含まれる薬)は避けましょう。市販薬では成分表を見て、リン酸コデインやジヒドロコデインが含まれていないか確認が必要です。
鼻炎症状に対して
抗ヒスタミン薬を使う場合、上記のロラタジン(クラリチン)やフェキソフェナジン(アレグラ)は妊娠中でも使用可能とされています。いずれも海外では妊娠中に頻用されており、動物実験や疫学調査でも奇形発生などは増加しなかった薬です。点鼻薬のステロイド(ベクロメタゾン点鼻液、モメタゾン点鼻液<ナゾネックス>など)も、鼻粘膜に局所作用する薬で全身移行が微量なため、重度の鼻づまりには医師の判断で使用されることがあります。妊婦さんが辛そうに口呼吸ばかりしている状態は良くありませんから、遠慮なく産婦人科や耳鼻科に相談してください。
細菌感染症への抗生物質の使用について
「妊娠中だから絶対ダメ」ということはありません。むしろ適切な抗生剤で感染症を治療することは母体と胎児を守るために必要です。抗生物質の中には妊婦に禁忌の種類もありますが、医師は安全なものを選んで処方します。妊娠中避けるべき代表例はテトラサイクリン系の抗生剤です(ニキビ治療薬ミノマイシンなど)。テトラサイクリン系は胎児の歯に着色を起こしたり骨の発達に影響する恐れがあるため妊娠中は使用しません。ニューキノロン系(クラビット<レボフロキサシン>、ジェニナック<ガレノキサシン>等)も動物実験で軟骨への影響が指摘されているため、妊娠中は極力避けます。それ以外のペニシリン系・セフェム系・マクロライド系については、必要に応じて使用されますので、医師の指示に従ってください。
胃腸系の症状(吐き気・腹痛・下痢・便秘)
よくある症状
- つわり(妊娠初期の吐き気・嘔吐、食欲不振)
- 胃もたれ・胸やけ(胃酸の逆流、胃炎による胃部不快感)
- 腹痛・下痢(食あたり・胃腸炎などによる下痢、腹部の冷えによる差し込み)
- 便秘(妊娠に伴う慢性的な便秘、硬い便による排便痛)
一般的に処方されることがある主な薬
ピリドキシン(ビタミンB6)製剤(商品例:ピドキサール錠)
つわりの吐き気緩和に用いられることがあります。ビタミンB6は胎児にも必要なビタミンであり、適量の補給は問題ありません。
メトクロプラミド(商品例:プリンペラン)
制吐剤(吐き気止め)。胃腸の動きを整え吐き気を抑える薬です。妊娠初期のつわりがひどい場合や、風邪で吐き気がある場合などに処方されることがあります。これらは長年妊婦にも使用され、安全性が確認されています。
ドンペリドン(商品例:ナウゼリン)
制吐剤(吐き気止め)。2025年5月に、胎児の先天奇形リスクを高める可能性は低いとして、妊婦禁忌が解除されました。
酸化マグネシウム(商品例:マグミット)
制酸剤・緩下剤。胃酸を中和して胃もたれを軽減し、さらに腸を適度に刺激して便を柔らかくする作用があります。妊娠中の胃もたれや便秘に対して第一選択となる薬です。体内にほとんど吸収されないため胎児への影響もありません。
スクラルファート(商品例:アルサルミン) / テプレノン(商品例:セルベックス) / レバミピド(商品例:ムコスタ)
胃粘膜保護薬。胃壁に粘着して保護し、胃痛や胃もたれを和らげます。妊娠中でも必要に応じ使われます。特にスクラルファートは吸収されない薬剤なので安全です。
ファモチジン(商品例:ガスター)
H2ブロッカー(胃酸分泌抑制薬)。妊娠中の胃酸過多や逆流性食道炎に用いられることがあります。動物実験でも安全性が示されており、臨床的にも問題なく使用されています。
ランソプラゾール(商品例:タケプロン) / エソメプラゾール(商品例:ネキシウム) / ラベプラゾール(商品例:パリエット)
プロトンポンプ阻害薬(PPI)。逆流性食道炎や胃潰瘍等に対し、必要な場合に処方されます。PPI系も妊婦での使用経験が増えていおり、使用は問題ないとされています。
ブチルスコポラミン(商品例:ブスコパン)
鎮痙(ちんけい)薬。腸の過剰なぜん動を抑えて腹痛を鎮めます。過敏性腸症候群や生理痛の薬ですが、妊娠中の下腹部痛に処方されることもあります。
乳酸菌・整腸剤(商品例:ビオフェルミンなど)
妊娠中の下痢や便秘に対して腸内環境を整える補助的な薬です。副作用が少なく安全に使用できます。
妊娠中の注意点
つわり(妊娠悪阻)がひどい場合
食事や水分も摂れず体重減少が著しいときは、迷わず産科で相談しましょう。必要に応じて吐き気止めの注射や点滴による輸液がおこなわれます。「赤ちゃんのために何も口にできないけど頑張る…」と無理するより、治療によってお母さんの状態を改善するほうが安全です。ビタミンB6や漢方の小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)などは比較的副作用が少なく、妊婦への処方例も多い治療法です。取り入れられるものは活用して、つわり時期を乗り切りましょう。
また、当院では、妊娠中に服用可能なつわり治療薬「ボンジェスタ」の処方も行っておりますので、つわりにお悩みの方はお気軽にご相談ください。
胃痛や胸やけがある場合
まず生活習慣の改善が基本です。妊娠中は胃酸の逆流が起こりやすいため、少量ずつ食べる・就寝前2時間は何も食べない・枕を高めにして上半身を起こして寝るといった工夫をしてください。それでも症状が強い場合、前述の制酸薬(酸化マグネシウムなど)や胃粘膜保護剤が処方されます。これらで効果不十分な逆流性食道炎にはH2ブロッカー(ファモチジン等)、PPI(ネキシウム等)が用いられます。H2ブロッカーは比較的安全ですが、自己判断で市販の胃薬を飲まないよう注意しましょう。市販胃薬の中にはNSAIDs成分を含む鎮痛系のものや、総合感冒薬同様に複数成分が入ったものがあります。妊娠中に使えるか判断が難しいため、必ず薬剤師か医師に確認してください。
下痢をしている時
水分と電解質の補給が何より大切です。脱水を防ぐため、スポーツドリンクや経口補水液(ORS)を少しずつ飲みましょう。妊娠中でも整腸剤や乳酸菌製剤は安心して使えます。一方、市販の止瀉薬(下痢止め)には注意が必要です。代表的なロペラミド(商品名ロペミン、市販の「○○ストッパ」など)は腸の動きを止める強力な薬です。妊娠中に絶対禁忌ではありませんが、感染症による下痢では体内の毒素を出すことが重要な場合もあり、安易に下痢を止めるとかえって治りが遅れることがあります。したがって、妊娠中の下痢に市販薬を使うのは避け、受診して適切な治療を受けてください。必要なら産婦人科で整腸剤のほか、抗生剤(細菌性腸炎の場合)や脱水に対する点滴などをしてもらえます。
便秘がある時
便秘は妊婦さんの多くが経験するトラブルです。妊娠により黄体ホルモンが腸の動きを抑制すること、子宮が大きくなって腸を圧迫すること、運動量の減少など様々な要因で便秘になりがちです。食物繊維と水分をしっかり摂る、適度に体を動かすといった生活習慣の改善が第一ですが、それでも難しいときは酸化マグネシウムが処方されることが多いです。酸化マグネシウムは便を柔らかくして出しやすくする薬で、クセになったり赤ちゃんに悪影響を与えたりしにくいお薬です。ただし下剤の自己判断使用には注意してください。刺激性の便秘薬(センナや大黄を含む漢方、アロエ・ダイオウ成分のある市販薬など)は子宮収縮を誘発する可能性があり危険です。有名な「コーラック」(ビサコジル成分)も刺激性下剤の一種ですので、産婦人科の指示なしに飲まないでください。便秘解消には、場合によって座薬や浣腸(即効性があります)を使うこともありますが、これも念のため医師に確認してからの方が安心です。
つわり治療薬ボンジェスタについてはこちら痔(じ)・皮膚トラブル
よくある症状
- 痔(いぼ痔・切れ痔): 肛門の痛み、出血、腫れ(いぼ状のふくらみ)、かゆみ
- 皮膚のかゆみ・湿疹: お腹や胸の皮膚の乾燥によるかゆみ、妊娠性湿疹(妊娠中に悪化するアトピーや蕁麻疹)、妊娠線に伴うかゆみ
- にきび・肌荒れ: ホルモンバランス変化によるにきび悪化や肌の脂性化
一般的に処方されることがある主な薬
痔の外用軟膏(非ステロイド)(商品例:ボラギノール®M軟膏)
局所麻酔成分や抗炎症成分を含む塗り薬。肛門の痛み・かゆみを抑え、出血や腫れを改善します。ステロイドを含まないタイプは市販でも購入でき、妊娠中でも使用可能です(ただし自己判断より医師の診断を)。
非ステロイド系坐薬(商品例:ボラギノール®M坐薬、ボラザG坐剤、ヘルミチン坐剤)
肛門内に入れる坐薬タイプの痔の薬。ヒドロコルチゾンなどのステロイドが配合されておらず、妊娠中でも安心して使えます。
ステロイド外用薬(塗り薬)(商品例:ロコイドクリーム〈成分ヒドロコルチゾン酪酸エステル〉、リンデロンVG軟膏〈成分ベタメタゾン+殺菌剤〉など)
湿疹や蕁麻疹、皮膚炎の治療薬。強さに段階がありますが、弱め〜中程度のランクのステロイド外用なら妊婦さんでも安全に使えるとされています。かゆみがひどい局所に短期間塗る分には胎児への影響はほぼありません。
保湿剤(スキンケアクリーム)(商品例:ヒルドイドソフト、ワセリンなど)
皮膚の乾燥とかゆみ予防に用います。お腹の皮膚のつっぱりや妊娠線周囲のかゆみには、保湿ケアが第一選択です。どの保湿剤も皮膚からの吸収はごくわずかなので妊娠中でも安心して使えます。
抗ヒスタミン薬の内服(商品例:ポララミン錠 等)
皮膚のかゆみが全身的に強い場合や、蕁麻疹が出た場合などに内服でかゆみを抑えます。クロルフェニラミン(ポララミン)は古くから妊婦にも使われてきた薬で、適度な使用であれば安全です。眠気が出るので就寝前などに服用します。
妊娠中の注意点
痔のトラブルについて
妊婦さんの約半数以上が経験すると言われます。妊娠中は便秘になりやすく、いきみやホルモンの影響で肛門周囲の血行が滞りがちです。その結果いぼ痔(内痔核・外痔核)や切れ痔が起きやすくなります。対策の基本は便秘予防と肛門への負担軽減です。上記の酸化マグネシウムなどで便を柔らかく保ち、トイレでは長時間いきまないようにしましょう。痛みや出血がある場合、産婦人科でも相談すれば妊婦用の痔の薬を処方してもらえます。軽い症状なら産科で座薬を出してくれることも多いです。肛門科の受診に抵抗がある妊婦さんも多いですが、産科主治医に遠慮なく伝えてください。妊娠中の痔悪化を防ぐため、お産の際にも助産師さんが肛門を保護してくれたりします。恥ずかしがらずに事前に伝えておくことも大切ですよ。
市販の痔の塗り薬を使う場合
ステロイド無配合の軟膏(ボラギノールMなど)を選ぶと安心です。肛門の外側にできた痔(外痔核)や切れ痔なら、軟膏を外側に塗って痛みとかゆみを和らげることができます。ただし内側の痔(内痔核)には軟膏を塗っても届かないため、坐薬を挿入することになります。坐薬タイプでもステロイドを含まないもの(ボラザG坐剤、ヘルミチン坐剤など)は安心して使用できます。市販薬で対処したい場合は薬剤師にも相談の上で選んでください。
ステロイド軟膏の使用について
「お腹の赤ちゃんへの影響が心配…」と感じる妊婦さんは多いです。しかし、皮膚から吸収されるステロイドはごく微量であり、適切な強さ・量を守れば胎児奇形などの報告はありません。 むしろ、妊娠中に皮膚炎が悪化して強いストレスを感じたり、掻き壊して皮膚感染を起こすほうがリスクです。産婦人科医や皮膚科医は、妊娠中でも使える弱めのステロイドを処方してくれますので、「妊婦だから」と我慢しすぎず治療しましょう。なお市販の強力なステロイド軟膏(一般には市販されませんが、市販薬ではウィッチヘーゼル配合の痔治療薬など一部にステロイド含有)が手に入る場合もありますが、原則として妊娠中の自己判断使用はNGです。必ず専門医に相談してください。
皮膚のかゆみ対策について
保湿剤は積極的に使ってください。ワセリンやヒルドイドなどで肌をしっとり保つだけでも、かなり痒みが軽減します。妊娠線予防クリームなども保湿効果がありますから、かゆみ防止に役立てましょう。入浴後はなるべく早めにクリームを塗るのがポイントです。また、爪を短く切って掻き壊しを防ぐことも大切です。夜間無意識に掻いてしまう場合は、前述のポララミンなど眠気を利用した内服抗ヒスタミン薬を寝る前に服用するとぐっすり眠れて一石二鳥です。こちらも医師に相談の上で処方してもらえます。
にきび(ニキビ)治療に関して
注意しておきたいのは、ビタミンA誘導体(レチノイド)という成分です。重症ニキビに用いるイソトレチノイン(商品名:アキュテイン等)という飲み薬は重篤な催奇形性があるため妊娠中絶対禁忌ですが、これは国内では未承認です。一方、塗り薬のトレチノインやアダパレン(ディフェリン)といった外用レチノイドも、皮膚からの吸収は少ないとはいえ妊娠中の使用は避けるのが原則です。市販の美容液などに含まれるレチノール(ビタミンAの一種)も、高濃度のものを妊娠初期に頻繁に使うのはやめておいた方が無難でしょう。ミノサイクリン(ミノマイシン)はテトラサイクリン系抗菌薬の一種で、妊娠中の使用は禁忌です。
妊娠中のニキビ治療にはアゼライン酸などの塗り薬や、漢方の十味敗毒湯や当帰芍薬散など比較的安全な選択肢があります。皮膚科医と相談し、自己判断でリスクのある成分を使わないようにしましょう。
まとめ
妊娠中は、「薬を飲んでいいのか」「赤ちゃんに影響が出ないか」と不安になりやすい時期です。実際には、妊娠中でも医師の判断のもとで使用されることがある薬はあり、つらい症状を無理に我慢し続けることが、必ずしも赤ちゃんのためになるとは限りません。母体の体調が大きく崩れることで、かえって妊娠経過に影響が出る可能性もあるため、必要な治療を適切に受けることが大切です。
ただし、妊娠中の薬の安全性は「すべて同じ」ではなく、妊娠初期・中期・後期といった週数や、用量・使用期間によって判断が変わることがあります。とくに市販薬は複数の成分が含まれていることが多く、知らないうちに妊娠中は避けたい成分を摂取してしまうケースもあります。そのため、自己判断で市販薬を選ぶのではなく、症状に応じて医師や薬剤師に相談することが安心につながります。
発熱や頭痛、風邪症状、胃腸トラブル、咳や鼻炎、痔や皮膚のかゆみなど、妊娠中によくある不調に対しても、妊婦さんに配慮して選ばれる薬は存在します。一方で、妊娠後期の一部の鎮痛薬や、妊娠中に使用を避けるべき薬もあるため、「妊娠中でも使われることがある薬」と「注意が必要な薬」を区別して理解しておくことが重要です。
「この薬を飲んでも大丈夫かな」と迷ったときは、今の妊娠週数や症状の程度、服用を考えている薬の名前を整理したうえで、産婦人科に相談してみてください。症状が強い場合や、受診のタイミングに悩む場合には、オンライン診療などを活用するのも一つの方法です。不安を一人で抱え込まず、医療者と一緒に判断していくことが、妊娠期間を安心して過ごすための近道になります。
妊娠中の薬は「怖いもの」ではなく、「正しく選び、正しく使うもの」です。正確な情報と専門家のサポートを上手に取り入れながら、ご自身と赤ちゃんの健康を守っていきましょう。
レディースクリニックなみなみを予約する参考文献
ミナカラ薬剤師監修「妊娠中痔になったら薬は使える?妊娠中の痔の治し方」(2024)
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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どの診療科の医師も患者さんが妊婦の場合、薬の処方には慎重になります。医師から「問題ない」と処方された薬については、「現在の病状に対しては該当の薬を服用するメリットの方が大きい」との判断のもと処方された可能性が高いです。もし不安な場合は薬を処方した医師・もしくは産婦人科の主治医にご相談頂くほうが安心です。