
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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妊娠中に「つわりで眠れない」と悩む妊婦さんへ。
妊娠初期のつわりは約70~80%の妊婦さんに現れる一般的な症状ですが、吐き気や不快感のせいで夜眠れないこともあり、大きなストレスになります。実は妊娠中はホルモン変化や体調の影響で睡眠障害が起こりやすく、日中に強い眠気を感じる「眠りづわり」になる人もいれば、逆につわりが辛くて夜眠れない人も少なくありません。近年の研究でも、つわり症状が重い妊婦ほど睡眠の質が低下しやすいことが報告されています。
本記事では、つわりと睡眠障害の関係を医学的に解説し、つわりで眠れない原因と対処法をご紹介します。また、つわり改善に用いられるお薬「ボンジェスタ(ドキシラミン+ピリドキシン配合)」の効果・安全性について、国内外のエビデンスを基に解説します。
💡この記事でわかること
つわりと不眠の関係:妊娠初期のホルモン変化がつわりと睡眠障害に与える影響を解説します。
つわりで眠れない原因と対策:吐き気や不快感、ストレスなどの原因と生活改善のポイントを紹介します。
ボンジェスタの効果と安全性:つわり改善と睡眠促進に役立つ薬の仕組みとエビデンスを説明します。
受診のタイミング:症状が重い場合の産婦人科受診の目安を提示します。
つわりと睡眠障害の関係とは?
「つわり」と「睡眠」は切っても切れない関係にあります。妊娠初期のつわり(悪心・嘔吐)は、妊婦さんの心身に大きな負担をかけるため、睡眠にも影響を与えます。つわりの代表的な症状には吐き気・嘔吐、食欲不振、嗅覚過敏、疲労感・眠気などがあります。中でも「常にだるくて眠い」という眠りづわりは、ホルモン変化による体調変化で一日中強い眠気に襲われる状態です。一方、夕方から夜にかけてつわり症状が悪化し、吐き気や胃のムカムカで夜眠れないケースもあります。実際、「朝だけでなく一日中つわりが続いた」という妊婦さんは全体の80%にも上るとの報告もあり、必ずしも朝だけの症状ではないのです。そのため、「夜眠れないほどのつわり」は珍しいことではなく、多くの妊婦さんが経験しています。
睡眠は本来、心身の疲労を癒やす重要な時間ですが、つわりがひどいと十分に休息できず、悪循環に陥りがちです。「夜なかなか寝付けない→睡眠不足で日中に疲労が溜まる→体調がさらに悪化し、夜また眠れない」というサイクルに苦しむ方もいます。つわりによる睡眠不足が続くと、妊婦さん自身の体調悪化だけでなく、気分の落ち込みや不安感の増強などメンタル面への影響も心配です。とはいえ、「お腹の赤ちゃんに悪影響が出ないか…?」と不安になりますよね。結論から言えば、一時的な睡眠不足そのものが直ちに胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性は低いとされています。ただし、妊婦さんの疲労やストレスが蓄積すると間接的にマイナスになる恐れもあるため、できる範囲で睡眠環境を整え、休めるときに休む工夫が大切です。
次章では、妊娠初期につわりで眠れなくなる原因を詳しく見てみましょう。
オンライン診療を予約するなぜつわりで眠れなくなるの?~主な原因とメカニズム
つわりで夜眠れない背景には、妊娠に伴う様々な体内変化が影響しています。主な原因として以下のようなポイントが挙げられます。
ホルモン変化による影響

妊娠すると体内では急激なホルモン環境の変化が起こります。胎盤から分泌されるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は妊娠初期に血中濃度が急上昇し、脳の嘔吐中枢を刺激して吐き気を誘発する主因と考えられています。これにより日中から夕方にかけてムカムカした状態が続き、夜になっても気持ち悪さが残ることがあります。また、黄体ホルモン(プロゲステロン)の増加も睡眠に影響します。プロゲステロンには体温を約0.3~0.5℃上昇させる作用があり、妊娠初期は高体温期が持続するため、夜になっても脳の温度が下がりにくく寝付きにくくなることがあります。さらにプロゲステロンは日中の強い眠気(眠りづわり)も招くため昼夜の睡眠リズムが乱れ、夜の不眠に拍車をかけるケースもあります。
自律神経の乱れと精神的ストレス
ホルモン変化は自律神経系にも影響を及ぼし、睡眠リズムや消化機能の乱れを引き起こします。また、妊娠が判明したことによる喜びと同時に、「無事に育つかな」「出産まで乗り切れるかな」といった不安や緊張感が高まる時期でもあります。心配事が頭をよぎって眠れなくなる妊婦さんは少なくありません。神経が過敏になることで些細な体調の変化にも敏感になり、夜間に「また吐き気が来るかも…」と構えてしまうと余計に寝付けなくなる悪循環にも注意が必要です。
吐き気・胃の不快感
つわりそのものの症状が睡眠を邪魔する直接的な原因です。強い吐き気があると横になっても気持ち悪く、眠りに集中できません。特に夕食後から就寝前にかけて胃がムカムカする「夜つわり」タイプの妊婦さんは、布団に入っても吐き気で眠れず辛い思いをします。これは、空腹や低血糖状態も一因です。夕食後しばらく時間が経つと血糖値が下がり、それが吐き気を誘発してしまうことがあります。実際、妊婦さんの体験談でも「夕方~夜にかけて空腹になると気持ち悪くなり眠れなかった」という声があります。また、横になる姿勢自体が胃酸の逆流を招き、胸やけや喉の違和感が出て眠れない場合もあります。妊娠初期は胃腸の働きが低下しがちなうえ、食道と胃の境目の筋肉も緩みやすくなるため、胃内容物が上がってきやすいのです。その結果、逆流性食道炎のような症状で夜間の不快感が増し、睡眠を妨げることがあります(※中期以降は大きくなった子宮に胃が圧迫されることで逆流が起こりやすくなります)。
その他の身体的要因
妊娠が進むにつれて頻尿(夜中に何度もトイレに起きる)、お腹の張りや胎動、腰痛といった妊娠特有のマイナートラブルも睡眠を中断させる原因になります。妊娠初期でも軽い腹痛や動悸、発汗など、自律神経の不調による症状が出ることがあり、人によってはそれらが気になって眠れないこともあります。「なんとなく寝苦しい」「寝てもすぐ目が覚めてしまう」という場合も含め、妊娠中は総じて睡眠の質が低下しやすい時期と言えるでしょう。
オンライン診療を予約するつわりで眠れないときの対処法
つわりによる不眠は辛いものですが、いくつかの生活習慣の工夫やセルフケアで症状が和らぐ可能性があります。妊婦さんでも無理なく実践できる対処法を、いくつかピックアップしてみましょう。
1. 食事の工夫で吐き気を和らげる
寝る前に軽いものを少し食べる
空腹状態で寝ようとすると吐き気が強まる場合があります。低脂肪で消化の良いビスケットやクラッカー、トーストなどを少量つまんでみましょう。胃に何もないよりは少し物が入っている方が吐き気が落ち着き、眠りにつきやすくなります。枕元にプレーンなクラッカーを常備しておき、夜中や明け方に気持ち悪くて目が覚めたときに1~2枚食べるのも良い方法です。ただし、一度にたくさん食べるとかえって気持ち悪くなるので注意してください。
夕食の内容とタイミングを見直す
夕食は就寝の2~3時間前までに済ませ、消化の良いメニューを選びましょう。脂っこい物や香りの強い物は吐き気を誘発しやすいため避け、消化に時間のかかる生野菜よりも温野菜やスープなど胃に優しいものがおすすめです。また、「食べづわり」で常に何か口にしていないと気持ち悪いタイプの方は、夕食を無理に定量とらず小分けにして何度かに分散して食べても構いません。例えば夕方に軽めの食事をとり、就寝前にお茶碗半分のお粥やヨーグルトをとる等でもOKです。カフェインの摂取は夕方以降控えめにし、ハーブティー(※妊娠中でも安全なもの)や白湯などに切り替えると良いでしょう。
水分補給をこまめに
吐き気があると水さえ飲むのが辛いこともありますが、脱水状態になると余計に眠れなくなるため注意が必要です。少しずつでも良いので水や麦茶、スポーツドリンク、経口補水液(OS-1など)を摂りましょう。冷たい飲み物がNGなら常温か温めて、逆に熱いお茶がダメなら冷やしてみるなど温度を工夫します。レモンの輪切りや生姜を浮かべたお湯は吐き気を和らげリラックス効果もあります。水分は一度に大量ではなく一口ずつ頻回に摂るのがコツです。
オンライン診療を予約する2. 睡眠環境・習慣を整える
寝室の環境づくり
部屋の温度・湿度を快適に保ち、通気を良くしておきましょう。妊娠中は体温が高めなので、夏は冷房や扇風機を適度に使い、冬でも寝室が暑すぎないよう調整します。吐き気が酷いときは窓を少し開けて新鮮な空気を入れると楽になることがあります。照明も重要で、就寝前は暖色系の間接照明など落ち着いた明るさにし、できれば照明を暗くしてから30分~1時間ほど静かな時間を過ごしてください。リラックスできる音楽を流したり、好きなアロマ(※妊娠中に安全な香り)をディフューザーで焚くのもよいでしょう。
寝る姿勢を工夫する
吐き気や胸やけがある場合、左側を下にした横向きで寝る姿勢が楽だとされています。胃の形状上、左向きの方が胃酸の逆流が起こりにくいためです。抱き枕やクッションを足の間に挟んだり、上半身をやや高めに(枕を少し高く)して眠ると圧迫感が軽減します。また、妊娠初期でも胸が張って寝苦しいことがあるので、締め付けの少ないブラトップを着用する、パジャマのウエストを緩めにする等、楽な服装で休みましょう。どうしても寝苦しい時は無理にベッドに横にならず、一度起き上がってソファに寄りかかるように座った姿勢でまどろむのも一つの手です。
規則正しい体内リズムを作る
夜しっかり眠るためには、日中の過ごし方も大切です。まず、朝起きたらカーテンを開けて日光を浴び、軽くでも朝食を口に入れてください。朝の光と食事刺激が体内時計をリセットし、夜に向けて自然な眠気を誘導してくれます。また、入浴は就寝の2時間前までに済ませましょう。お風呂で体を温めたあと深部体温がゆっくり下がっていくタイミングで眠気が訪れます。ぬるめのお湯にゆっくり浸かりリラックスすること自体、つわり緩和に役立ちます。
日中の仮眠は短めに
妊娠中はどうしても日中に強い眠気が出るため、昼寝で補うこと自体は問題ありません。ただし、夕方以降に長時間寝てしまうと夜の入眠がさらに困難になります。昼過ぎまでに30分~1時間以内の仮眠にとどめ、夕方以降はできるだけ起きているようにしましょう。短い昼寝でも疲労回復やつわり軽減に効果があります。眠気が強いときは無理せず安全な場所で休息を取ってくださいね。
3. リラックス法を取り入れる
深呼吸やストレッチ
吐き気で辛い時ほど体に力が入ってしまい、交感神経が高ぶって余計に眠れなくなります。意識的にゆっくり深呼吸し、息を吐くときに肩の力がスーッと抜けていくのを感じましょう。寝る前の簡単なストレッチも有効です。首や肩を軽く回したり、足首をゆっくり曲げ伸ばしするだけでもリラックスできます。妊娠中でもできるヨガのポーズ(四つん這いで背中を丸め伸ばしする「キャットポーズ」など)も吐き気軽減に良いとされていますが、無理のない範囲で行ってください。
心を落ち着かせる工夫
就寝前に不安や考え事が頭から離れないときは、思い切って紙に書き出してみるのもおすすめです。「明日やること」「心配なこと」を一旦書き出し、「今は考えなくていい」と自分に言い聞かせます。また、ご家族やパートナーに不安な気持ちを話してみるのも良いでしょう。共感してもらえるだけで心が軽くなり安心して眠れることもあります。どうしても眠れない場合は、一度起きてリビングで背もたれにもたれながら音楽を聴く、本を読むなどしてみて、再び眠気が出てきたらベッドに戻るという方法もあります。「眠らなきゃ」と焦ると余計に眠れなくなるので、眠れないときは無理に寝ようとしないほうがかえって早く眠りにつけます。

以上の対処法はあくまで症状を和らげるための工夫です。妊娠中の不眠そのものを完全に消し去るのは難しいかもしれませんが、「少しでも楽になる」ことを積み重ねて乗り切っていきましょう。それでもなお吐き気が強く眠れない状態が続く場合は、お薬の力を借りる選択肢も視野に入れてください。次章では、妊娠初期のつわりに使われるお薬 「ボンジェスタ」 の効果と安全性について解説します。
ボンジェスタ(ドキシラミン・ピリドキシン配合)でつわりは楽になる?
つわりがひどく日常生活に支障が出る場合、医療用の抗つわり薬を検討する段階かもしれません。その代表格が 「ボンジェスタ」です。ボンジェスタは米国やカナダ、欧州など海外では妊娠悪阻(つわり)治療の第一選択薬として広く使われている薬です。ドキシラミンコハク酸塩(Doxylamine)とピリドキシン塩酸塩(Pyridoxine、ビタミンB6)の2成分から成る合剤で、妊娠中の吐き気・嘔吐を緩和する効果があります。それぞれの成分の作用とボンジェスタの特徴を見てみましょう。
相乗効果と効果持続時間
ボンジェスタはドキシラミンとビタミンB6の組み合わせにより、単剤より高い吐き気軽減効果を発揮します。ある報告では症状が約70%改善したとのデータもあります。また、ボンジェスタは1錠にドキシラミンとピリドキシン各20mgを含む徐放性(放出が緩やか)製剤で、効果が長く続くよう工夫されています。通常は就寝前に1錠服用し、必要に応じて朝にもう1錠追加、1日最大2錠までという用法です。夜飲めば朝まで効果が持続しやすく、朝起き抜けの吐き気も軽減されます。
効果は本当に安全?胎児への影響は?
妊娠中に薬を飲むことへ抵抗を感じるのは当然ですが、ボンジェスタの安全性については世界的に確立されたエビデンスがあります。ボンジェスタの元になっているドキシラミン+ビタミンB6配合薬(かつて米国で「ベンデクティン」として販売)は1950年代から約60年以上にわたり使用されてきた経緯があり、多数の疫学研究で奇形発生リスクの増加は認められないと結論づけられています。米FDAは妊娠中の薬の安全性カテゴリーでこの組み合わせを最も安全な「カテゴリーA」に分類し、2013年に「ディクレジス(Diclegis)」として再承認しました。
唯一注意すべき副作用は眠気(傾眠)で、臨床試験でも服用者の約14%に日中の眠気がみられたとの報告があります。ただ、この眠気こそが夜間の睡眠確保にはプラスに働く面でもあります。とはいえ車の運転や危険作業は控える、服用量を自己判断で増やさない等の注意は必要です。
◆日本での入手状況
ボンジェスタは海外では標準治療薬ですが、残念ながら2024年末時点で日本国内では未承認(保険適用外)です。日本産科婦人科学会などから厚生労働省に対して早期承認の要望書が提出されていますが、現状は国内製薬会社から販売されておらず、使用するには海外からの医薬品輸入に頼る必要があります。そのため一般の産婦人科で「ボンジェスタをください」と言っても扱っていない場合が多いです。しかし一部の医療機関(自費診療)では、信頼できるルートで輸入したボンジェスタを処方しています。当院レディースクリニックなみなみでも2025年2月より院内でボンジェスタの取り扱いを開始しており、妊娠初期のつわりが辛い患者さまに処方が可能です。価格は自費にはなりますが、つわりで眠れない夜を少しでも楽に過ごす助けになるでしょう。

ボンジェスタ以外にも、妊娠中に使われる吐き気止め薬はいくつかあります。例えば、妊婦の制吐剤としてはメトクロプラミドやオンダンセトロン(いずれも重症例で使用)などが挙げられます。漢方薬では小半夏加茯苓湯や半夏厚朴湯などが吐き気に処方されることもあります。いずれにせよ、薬の使用は自己判断で市販薬を飲むのではなく、必ず産婦人科医と相談の上で適切な処方薬を用いるようにしましょう。大切な時期だからこそ、しっかりした産婦人科の診療を受診してください。
つわりで眠れないとき、受診の目安とタイミング
つわりによる不眠や体調不良が続くとき、「どのタイミングで病院に相談すべきか」迷いますよね。基本的には「少しでも異変を感じたら早めに相談」が原則ですが、特に次のような場合は産婦人科を受診しましょう。
水分も摂れない・脱水症状の恐れがある
8時間以上飲めない、24時間以上食べられないような状態は脱水のリスクが高く危険です。尿の減少や濃い色の尿、立ちくらみ、唇の乾きなど脱水症状が見られたら迷わず受診してください。点滴による水分・電解質補給が必要になるケースです。
体重が急激に減っている
妊娠前から5%以上の体重減少がある、または日ごとに体重が減り続けている場合も要注意です。重度の妊娠悪阻(ハイパーエメシス)に移行している可能性があります。母体だけでなく胎児への栄養供給にも影響するため、医療的ケア(点滴栄養や入院治療など)が検討されます。
嘔吐が止まらず体力が限界
1日に何度も嘔吐し、その度に喉や腹筋の痛み、衰弱感が増している場合も病院での対応が必要です。吐き気止めの注射や坐薬など、経口以外の投与方法で症状を和らげられる可能性があります。「吐くものがなくても吐き気だけある」状態が続くのも大変つらいので、我慢せず医師に相談しましょう。
全く眠れない日が続く
数日間まともに眠れず、起き上がれないほどの倦怠感やめまい、気分の落ち込みが出てきた場合も一度受診してください。睡眠不足による妊娠うつの予防という観点からも専門家のサポートが有効です。場合によっては妊婦でも飲める漢方薬や軽い精神安定剤が処方されることもあります(※薬の使用は慎重に判断されます)。
早めに相談しても大丈夫!
「つわりくらいで受診するのは大げさかな…」と遠慮する必要はまったくありません。特に初めての妊娠であれば分からないことだらけで不安になって当然です。産婦人科では、症状に合わせて適切な指導や治療を行ってくれます。仕事をされている方であれば、医師に相談して母性健康管理指導事項連絡カード(いわゆるつわりなど妊娠中の症状を勤務先に伝える書類)を書いてもらうことで、勤務時間の短縮や休職の措置をとることも可能です。法律で妊娠中の働く女性の健康配慮が義務付けられていますから、職場への遠慮は要りません。
まとめ:つらい時は迷わず産婦人科を受診しましょう
妊娠初期のつわりはとても辛いものですが、多くの場合は妊娠12~16週頃には落ち着いてきます。それまでの間、今回ご紹介したような食事や生活の工夫、必要に応じてお薬の力を借りながら、なんとか乗り切っていきましょう。「つわりがあるのは赤ちゃんが順調に育っている証拠」とも言われますが、辛いものは辛いです。我慢しすぎて心身ともに参ってしまう前に、周囲や医療機関にサポートを求めることが大切です。一人で抱え込まず、必要なときはいつでもご相談ください。あなたが少しでも安らかな眠りを取り戻せますように、心から応援しています。
当院レディースクリニックなみなみでも、妊娠初期のつわりや睡眠に関するご相談を随時受け付けています。記事内で紹介したボンジェスタの処方も可能で、つわりが辛くて来院自体が難しい場合はオンライン診療での対応も行っています。妊婦健診の際に一緒にご相談いただいても構いません。「つわりで眠れない」など辛い症状があるときは決して我慢せず、早めに産婦人科医に頼ってくださいね。
よくある質問(FAQ)
つわりで夜眠れなくなる原因は何でしょうか?
妊娠初期はホルモンバランスの急激な変化や自律神経の乱れ、吐き気・胃の不快感、精神的な不安などが重なり、夜も体調が安定せずに眠りにくくなることが原因です。特に、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)やプロゲステロンの影響で、体温調整や睡眠リズムが乱れることが大きな要因と考えられています。
ボンジェスタとはどのような薬ですか?
ボンジェスタは、ドキシラミン(抗ヒスタミン薬)とピリドキシン(ビタミンB6)の配合薬で、妊娠初期のつわりに伴う吐き気や嘔吐を和らげるとともに、その副作用である眠気を利用して睡眠をサポートする効果があります。国内外のガイドラインでも第一選択薬として推奨される実績があります。
ボンジェスタの安全性はどのように考えればよいですか?
ボンジェスタは、世界各国で60年以上使用されている実績があり、多数の疫学研究により胎児への催奇形性が認められないと確認されています。米国FDAでは「カテゴリーA」に分類されており、医療機関での処方も安全性に基づいて行われています。ただし、眠気などの副作用があるため、運転や機械操作の際は注意が必要です。
つわりで眠れないときに生活習慣で改善できるポイントは何ですか?
軽食の工夫: 寝る前にクラッカーやお粥など消化に良い軽いものを少量摂る。
寝室環境の整備: 部屋の温度や湿度、照明を調整し、快適な睡眠環境を作る。
適切な睡眠リズム: 朝の光を浴び、規則正しい生活リズムを維持する。
リラックス法: 深呼吸やストレッチ、軽いストレス解消の工夫で心身を落ち着かせる。
つわりで眠れないときにどのタイミングで産婦人科を受診すべきでしょうか?
吐き気や嘔吐が続き、水分が十分に摂れなかったり、体重が急激に減少する場合、また睡眠不足が続いて日常生活に支障をきたす場合は、早めに産婦人科に相談することが大切です。特に、症状が改善しない場合や、全体的な体調の変化が感じられるときは、自己判断せずに専門医の診断を受けるようにしてください。

執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
…続きを見る
つわりで眠れない背景にはホルモン・自律神経・心理的要因・身体的不快感など様々な要素が絡み合っています。ただし、個人差が大きく、全ての妊婦さんに当てはまるわけではありません。大切なのは「自分だけが眠れないのではない」と知ることです。多くの妊婦さんが同じ悩みを抱えており、それに対処する方法もいくつか確立されています。