「つわりがつらくて、何も食べられない…」「ビタミンB6が良いって聞くけど、本当に効果があるの?」
妊娠初期に起こる、吐き気や嘔吐などのつわりの症状。個人差はありますが、多くの妊婦さんを悩ませる症状の一つです。
つわりを少しでも和らげる方法として、近年注目されているのが「ビタミンB6」です。今回は、ビタミンB6がつわりに与える影響や、効率的な摂取方法について、産婦人科医の視点から詳しく解説していきます。
つわりのメカニズム
つわりの明確な原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、一般的には妊娠によるホルモンバランスの変化や、自律神経の乱れなどが影響していると考えられています。
特に、妊娠初期に急激に分泌量が増加する「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」というホルモンが、つわりに深く関わっていると考えられています。
つわりで起こる主な症状
つわりは、吐き気や嘔吐だけでなく、さまざまな症状を引き起こします。代表的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 吐き気
- 嘔吐
- 食欲不振
- 倦怠感
- 眠気
- 頭痛
- においに敏感になる
- 唾液過多
これらの症状は、時間帯や日によって変化することもあります。
つわりの期間
つわりは一般的に、妊娠5~6週ごろから始まり、12~16週ごろには落ち着いてくることが多いです。ただし、中には妊娠期間を通してつわりが続く方もいます。つわりの程度や期間には個人差が大きいことを理解しておきましょう。
つわりに関して詳しくはこちらの記事にまとめています。
ここではビタミンB6に関して詳しくみていきましょう。
ビタミンB6について
ビタミンB6ってどんな働き?
ビタミンB6は、水溶性ビタミンのひとつで、タンパク質の代謝や神経伝達物質の合成など、体にとって重要な役割を果たしています。
女性にとってはエストロゲンとの関連がわかっているので普段から女性にとっては大切なビタミンの一つです。具体的には、以下のような働きがあります。
- 皮膚や粘膜の健康維持
- 免疫機能の維持
- 赤血球の生成
- 神経伝達物質の合成
- エストロゲンの代謝の補酵素になっている
- アミノ酸の代謝の補酵素になっている
補酵素とはホルモンやアミノ酸を体の中で代謝する際に手助けをする物質の一つです。補酵素があって初めて物質(ホルモンやアミノ酸)を変換することができるのです。
いろいろな働きがあるビタミンB6ですが、体内で生成することができないため、食事やサプリメントから摂取する必要があります。
ビタミンB6の種類は?
ビタミンB6は、いくつかの異なる化合物の総称であり、それぞれが体内でビタミンB6としての活性を持っています。主な種類は以下の通りです。
- ピリドキシン (Pyridoxine): 一般的にサプリメントや食品に含まれる形態。
- ピリドキサール (Pyridoxal): 体内で活性型の補酵素として働く形態。
- ピリドキサミン (Pyridoxamine): 体内での代謝過程で重要な役割を果たす形態。
サプリなどに含まれているのは一番安定とされているピリドキシンという形です。
これらのビタミンB6は、体内でリン酸と結合してリン酸エステル型のピリドキシン-5′-リン酸 (PNP)になり、活性化されます。
妊娠中はビタミンB6が減少する?
妊娠中はビタミンB6の消費量が増加します。これには大きく2つの原因があります。
- エストロゲンの増加に伴って、エストロゲンの消費のために使用される
- 胎児の神経系やの発達に必須なためエストロゲンが大量に使用される
これらのために通常よりもかなりの量のビタミンB6が消費されることになります。
母体のホルモン量が増加するためその代謝過程にビタミンB6が使われ、胎児の大切なからだをつくるのにもビタミンB6が必要なため、妊娠していない時と比較するとビタミンB6を意識的に摂取することが大切です。
つわりにビタミンB6が効果的な理由とは?
つわりの症状緩和に効果が期待できると言われているビタミンB6(論文はこちら▶︎)。ここでは、ビタミンB6の基本情報と、つわりに効果的な理由、摂取する際の注意点について詳しく解説していきます。
つわりにおけるビタミンB6の効果
ビタミンB6は、つわりによって引き起こされる吐き気や嘔吐などの症状を軽減する効果が期待されています。そのメカニズムとしては、以下のようなものがあるとされています。
- 神経伝達物質セロトニンの合成を助ける
- アミノ酸代謝を助ける
- エストロゲンの代謝を助ける
エストロゲンの増減が激しいこと、エストロゲンの体内濃度が高くなることが吐き気を引き起こす一つの原因とされています。
ビタミンB6が必要以上に減少してしまうとエストロゲンの代謝がうまく行えず、必要以上にエストロゲン濃度が高くなってしまいます。
また、トリプトファンというアミノ酸からセロトニンに変換する際にもビタミンB6は使用されるため、ビタミンB6が減少することでセロトニンに変換できないトリプトファンが増加します。トリプトファンも一定以上の濃度になると吐き気の原因になります。
これらの理由でつわり、吐き気が生じます。
ビタミンB6を補ってあげることで過剰なエストロゲン、トリプトファンを調整することができるためつわりの症状もよくなるとされています。
ビタミンB6の摂取について
ビタミンB6は、一般的に安全性の高い栄養素ですが、過剰に摂取すると、神経障害などの副作用を引き起こす可能性があります。妊娠中のビタミンB6の摂取上限量は、1日100mgとされています。(※厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より)
食事のバランスで自然に摂取できることが理想ですが、妊娠初期などはつわりの症状などでそもそも食事摂取もままならず悪いサイクルになることも多いです。サプリメントで摂取する場合は、過剰摂取にならないよう、用量を守ることが大切です。
食事でビタミンB6を摂取する際のポイント
食事で効率的にビタミンB6を摂取するためにはどんな点に気をつければ良いのでしょうか?
水溶性ビタミンは熱に弱いことが一般的ですが、ビタミンB6も同様です(ビタミンB6の熱による変化に関して▶︎)。
できれば生の野菜や果物、生魚(お刺身)などの形で摂取すると含有量を余すことなく利用できます。
ビタミンB6の摂取量は?
ビタミンB6の推奨摂取量は、年齢や性別、ライフステージによって異なります。以下に、一般的な摂取推奨量を示します。
成人のビタミンB6の推奨摂取量
成人男性: 1.4 mg/日 成人女性: 1.1 mg/日
妊娠中および授乳中の女性の推奨摂取量
妊娠中の女性: 1.9 mg/日 授乳中の女性: 2.0 mg/日
厚生労働省のページはこちらから▶︎
ビタミンB6は摂りすぎるとどうなる?
ビタミンB6は食品からの摂取では有害作用の報告は基本ありません(食事からそこまで摂取することは現実的に困難です)が、高用量のサプリメント摂取には注意が必要です。1-6 g/日の長期経口投与で、神経障害を引き起こす可能性があります。症状は用量依存性で、摂取中止で通常は改善します。
その他の過剰摂取の影響には、皮膚炎、光線過敏症、消化器症状などがあります。
米国食品栄養委員会(FNB)は、成人の1日許容上限摂取量(UL)を100 mg/日と設定しています。これは長期使用の潜在的リスクを考慮した値です。
【食事編】ビタミンB6を多く含む食べ物と摂取のポイント
ビタミンB6は、さまざまな食品に含まれています。ここでは、ビタミンB6を多く含む食品と、つわり中でも食事から効率的に摂取するためのポイントを紹介します。
ビタミンB6を多く含む食べ物
ビタミンB6を多く含む食品は、以下の通りです。
食品群 | 食品例 | 100gあたりの含有量 (mg) |
---|---|---|
魚介類 | マグロ カツオ サケ | 0.4~1.2 |
肉類 | 鶏レバー 豚レバー 牛レバー | 0.4~4.0 |
豆類 | ひよこ豆 レンズ豆 大豆 | 0.3~0.9 |
野菜類 | パプリカ にんにく 唐辛子 | 0.1~0.7 |
果物類 | バナナ アボカド ピスタチオ | 0.3~0.4 |
これらの食品を積極的に食事に取り入れるように心がけましょう。
【サプリ・薬編】ビタミンB6サプリメントの上手な選び方
食事からの摂取が難しい場合、サプリメントでビタミンB6を補うことも有効です。つわりで食事が取れない→ビタミンB6が減少→悪阻が悪化の悪いサイクルに入ってしまう前に、無理をしないことも大事です。
妊婦さんはみなさん「赤ちゃんのために良いものを」、「薬やサプリはよくないから」と考えがちですが決してそんなこともありません。きちんとどんなものが良いのか、専門家に聞きながら使用しましょう。
サプリメントで摂取するメリット・デメリット
サプリメントで摂取するメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
手軽に摂取できる 必要な量を確実に摂取できる 加熱がないため摂取効率が圧倒的に高い | 過剰摂取のリスクがある 食事と比べて費用がかかる |
ビタミンB6サプリメントを選ぶポイント
ビタミンB6サプリメントを選ぶ際には、以下のポイントを参考にしましょう。
- 含有量
1日の摂取目安量を参考に、適切な含有量のものを選びましょう。 - 成分
ビタミンB6以外の成分も確認しましょう。妊娠期には鉄分、葉酸、タンパク質も相対的に不足しがちなためこれらも同時に補えるものも中には存在します。 - 価格
継続して摂取するためにも、無理なく続けられる価格のものを選びましょう。
つわりに関するよくある質問
ビタミンB6以外につわりの症状を緩和する方法は?
ビタミンB6以外につわりを改善する方法としては、海外ではドキシラミンという抗ヒスタミン薬や、ビタミンB6と抗ヒスタミン薬の合剤のエビデンスが示され、保険適応で使用できる薬になっています。
こちらは日本では現在特定のクリニックでしか扱っていない状況です。
ビタミンB6は即効性がある?
吐き気どめのようにすぐに効果があるわけではないですが、ホルモンバランスやアミノ酸代謝への効果が出てくるのに数日は効果を観察する必要があります。
ビタミンB6のサプリメントは、いつから飲み始めればいい?
妊娠時期はビタミンB6の必要量が増えるので、食事でなかなか摂りにくいと感じる方はつわりが始まる前から飲み始める方もいます。多いのはつわりの症状が出始めてから、医師に相談の上で服用を開始するケースが多いです。
まとめ:つわりの症状緩和に効果的なビタミンB6の摂取を心がけましょう
今回は、つわりの症状緩和に効果が期待できるビタミンB6について解説しました。つわりの症状や程度には個人差がありますがビタミンB6の摂取は妊娠中、つわりへの対応に大切な要素です。食事の内容も含めて、医師に相談しながら、安全かつ効果的にビタミンB6を摂取するようにしましょう。
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ビタミンB6はエストロゲンとの関係もわかっていることから女性にとっては普段から大切なビタミンの一つです。
ビタミンBと聞くと美容の効果などばかりがフォーカスされますが、PMSや更年期、エストロゲンの合成が不安定な時期にもしっかり摂取することが大事だとされています。