
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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- デリケートゾーンの正常なにおい:健康な膣からの分泌物(おりもの)はほとんど無臭か、ヨーグルトのようなわずかに酸っぱいにおいがする程度です。この酸っぱいにおいの正体は膣内で作られる乳酸で、膣内を酸性に保ち雑菌の増殖を防ぐ働きがあります。
- 異常なにおいのサイン:魚の腐ったような生臭いにおい(いわゆる「魚臭症」)やツンとしたアンモニア臭、強い悪臭などは感染症の可能性があります。特に細菌性膣症では魚のような生臭いにおい、膣トリコモナス感染では強い悪臭を伴うことが知られています。
- においの原因はさまざま:ホルモンバランスの変化(生理周期、妊娠・産後、更年期など)や生活習慣(蒸れ、汗、尿もれ、ストレス、洗いすぎ等)がデリケートゾーンのにおいに影響します。正常な範囲のにおいであれば心配いりませんが、強いにおいやかゆみ・おりものの異常を感じる場合は原因を見極めることが大切です。
- 正しいセルフケアが重要:デリケートゾーンは顔より皮膚が薄くデリケートな部位です。においが気になるからとゴシゴシ洗うのは逆効果で、必要な常在菌まで洗い流してしまいます。専用の弱酸性ソープやぬるま湯でやさしく洗い、蒸れにくい下着を選ぶなど正しいケアをしましょう。市販のデオドラント商品や乳酸菌サプリを活用したケアもあります。
- 病院受診の目安:強い悪臭が続く、おりものの色や量に異常がある、かゆみ・痛み・出血を伴う場合は早めに婦人科を受診してください。膣カンジダ症や細菌性膣症など感染症が疑われます。放置すると症状が悪化したり他のトラブルを招く可能性があるため、専門医に相談しましょう。
デリケートゾーンのにおい、「自分だけ?おかしいのかな?」と不安に感じていませんか。実はデリケートゾーンのにおいは誰にでもある程度存在するもので、ホルモン周期や体調によって日々変化しています。「もしかして臭っているかも…」と心配になるお気持ちはとてもよく分かります。結論から言えば、少し酸っぱい程度のにおいであれば正常の範囲内であり過度に心配はいりません。一方で、明らかにいつもと違う強いにおいや不快な臭いを感じる場合には、膣内環境の乱れや感染症など何らかの原因が隠れている可能性があります。
デリケートゾーンのにおいは、女性のライフステージ(生理周期・妊娠出産・更年期など)や日々の習慣によっても変化します。例えば生理前後はホルモン変動でおりものの量やpHバランスが変わり、一時的ににおいが強く感じられることがあります。また、産後や更年期の女性は女性ホルモン(エストロゲン)の低下により膣粘膜が乾燥し自浄作用が弱まるため、においトラブルが起きやすくなります。
そこで本記事では、デリケートゾーンの正常なにおいと異常なにおいの違いをはじめ、においが強くなる原因(ホルモンや生活習慣の影響、考えられる病気など)について詳しく解説します。さらに、におい対策の正しいセルフケア方法や市販の商品・当院で扱っている乳酸菌サプリメントによるケア、そして「どんな場合に病院を受診すべきか」といったポイントも取り上げます。悩みを放置せず正しく対処することで、不安を解消し快適な毎日を取り戻しましょう。
デリケートゾーンのにおい:正常なにおいと異常なにおいの違い
まず初めに、デリケートゾーンの「正常なにおい」と「異常なにおい」の違いを把握しておきましょう。おりものの状態やにおいは個人差がありますが、一般的な目安を知っておくと、自分のにおいが正常範囲か異常のサインか判断する助けになります。
- 正常なデリケートゾーンのにおい:健康な膣内ではデーデルライン桿菌などの善玉菌が乳酸を産生しており、膣内は弱酸性(pH3.8~4.5程度)に保たれています。そのため、おりものや膣のにおいはほぼ無臭~わずかに酸っぱいにおいがする程度です。よく「ヨーグルトのような酸っぱい匂い」と表現されますが、それは乳酸によるものです。この程度のにおいであれば正常な生理的現象ですので過度に心配する必要はありません。なお、生理中は経血の影響で鉄っぽい匂いや強めのにおいを感じることもありますが、生理後に収まれば問題ないことが多いです。
- 異常が疑われるにおい:普段と明らかに違う強いにおいがする場合は注意が必要です。代表的なのは、魚が腐ったような生臭いにおい(魚臭[ぎょしゅう])です。これは細菌性膣症に典型的な症状で、おりものが灰色がかった白色に濁り、生魚のような臭いがするのが特徴です。また、膣トリコモナス感染症では強い悪臭と表現される嫌なにおいがあり、黄緑色で泡状のおりものを伴うことが多いです。一方、ツンとしたアンモニア臭を感じる場合は、尿漏れによる尿臭や、膣内よりも外陰部の皮膚表面に雑菌が繁殖している可能性があります。特に更年期以降は尿失禁による尿臭が下着に移り、不快なにおいの原因となるケースもあります。このように「魚臭い」「腐敗臭」「アンモニア臭」など明確に不快なにおいがする場合は何らかの異常サインと考え、次に述べる原因や病気の可能性をチェックすることが大切です。
デリケートゾーンのにおいが強くなる原因
デリケートゾーンのにおいが普段より強く感じられるとき、その背景には様々な原因が考えられます。大きく分けると、ホルモンバランスやライフステージの変化によるもの、蒸れや汗・おりものの増減など生活習慣によるもの、そして誤ったケアによる膣内環境の乱れが挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
① ホルモンバランス・ライフステージの変化によるもの
女性の体はホルモンの分泌サイクルによっておりものの量や性状、においにも変化が現れます。
生理周期とにおいの変化
生理前後に「いつもよりにおいが気になる」という経験はありませんか?排卵後~生理前は黄体ホルモン(プロゲステロン)が優位になる影響でおりものの量が減り、膣内がややアルカリ性に傾きます。そのため普段は感じないにおいが強まることがあります。生理中は経血の鉄臭さが混ざり、生理後は膣内が酸性に戻るまで若干においが残る場合もあります。これらは生理周期に伴う一時的な変化で、生理が終われば収まる軽いにおいであれば心配いりません。
妊娠中・産後のホルモン変化
妊娠すると女性ホルモンが急激に変化し、おりものの量が増えることがあります(いわゆる「妊娠おりもの」)。この妊娠初期のおりものは白っぽく無臭~ほのかに酸っぱいにおいがする程度で、妊娠による正常な現象です。一方、産後は授乳中でエストロゲンが抑えられる影響で、体が更年期のようなホルモン低下状態になります。産後のおりものは一時的に減少し膣が乾燥しやすくなるため、膣内環境が乱れてにおいトラブルが起きやすい時期です。また産後しばらく続く悪露(おろ)は、子宮からの分泌物で生理に似た血液のにおいがあります。通常は日が経つにつれ量もにおいも減っていきますが、悪臭や発熱を伴う場合は子宮内感染の可能性もあるため注意が必要です。
更年期以降(エストロゲン低下)
40~50代の更年期に入ると卵巣機能の低下でエストロゲン分泌が大きく減少し、膣粘膜の萎縮・乾燥が進みます。膣の潤いが失われると本来備わっている自浄作用(おりものによる膣内の洗浄機能)が低下し、雑菌が繁殖しやすくなります。加えて、エストロゲン低下で膣内のグリコーゲン(善玉菌のエサ)が不足し、乳酸菌(デーデルライン桿菌)も減少してしまいます。その結果、膣内の酸性度が弱まり悪玉菌が増えやすくなるため、萎縮性膣炎(更年期の膣炎)といった状態になり悪臭を伴うことがあります。更年期以降の女性が「なんとなくデリケートゾーンが臭う」と感じる場合、こうしたホルモン低下による膣環境悪化が背景にあるかもしれません。
② 蒸れ・汗・尿もれなど生活習慣によるもの
日々の生活の中のちょっとした習慣や環境も、デリケートゾーンのにおいに影響を与えます。
通気性の悪い服装や下着による蒸れ
締め付けの強いガードルやストッキング、化学繊維の下着はデリケートゾーンが蒸れやすくなります。湿度が高く蒸れた環境では皮膚表面の雑菌が繁殖しやすくなり、汗臭さやムレ臭が強まります。特に暑い季節や運動時は陰部も汗をかきますので、長時間汗で濡れた下着を身につけないようにし、こまめに清潔な布に替えるといった対策が有効です。
おりもの・経血の長時間放置
おりものシートや生理用ナプキンを長時間替えずにつけっぱなしにしていると、雑菌が増えてにおいの原因になります。生理中は特に経血が空気に触れて時間が経つと嫌な臭いを発しやすくなるため、ナプキンはこまめに交換しましょう。おりものシートも便利ですが、一日中つけていると通気性が悪くなりかぶれやすくなるため、必要なときだけ使い、濡れたら早めに取り換えることをおすすめします。
尿もれ・尿失禁
産後や更年期の女性に増える軽度の尿もれも、実はデリケートゾーンの臭いの一因となります。少量でも尿が下着について蒸発するとアンモニア臭の元になりますし、尿もれパッドの長時間使用で肌がかぶれて雑菌臭が生じることもあります。尿もれ対策としては、吸水ショーツや尿もれパッドを利用しつつも頻繁に取り替えること、骨盤底筋トレーニングで改善を図ることが大切です。臭いが気になる場合はパッドをこまめに交換し、外陰部を清潔に保つよう心がけましょう。
ストレスや体調不良
睡眠不足や過労、ストレスは身体の免疫力を低下させ、膣内の善玉菌にも影響します。疲れが溜まっているときに限ってデリケートゾーンのにおいが気になる…という場合、ストレスで膣内フローラのバランスが乱れ細菌性膣症を発症している可能性があります。実際、細菌性膣症は「疲れやストレスで繰り返す」と感じる女性も多いです。ゆっくり休養を取る・ストレスを軽減することも、におい対策の一環といえるでしょう。
③ 不適切な洗浄・お手入れによるもの
デリケートゾーンのにおいが気になるあまり、間違ったケアをしてしまうと逆効果になることがあります。以下のような誤ったお手入れには注意しましょう。
石鹸の使いすぎ・ゴシゴシ洗い
陰部を強い石鹸で念入りに洗えば洗うほど清潔になる、と思っていませんか?実はそれは誤解です。デリケートゾーンの皮膚はとても薄くデリケートで、ナイロンタオルなどでゴシゴシ洗うと摩擦でかえって炎症を起こしやすくなります。また、膣の入口付近まで石鹸で洗浄しすぎると、膣内を守っている善玉菌まで洗い流してしまい、悪玉菌が繁殖しやすい環境になります。この結果、洗いすぎがにおい悪化や膣炎の原因になることもあるのです。「清潔にしなくては」と思うあまり洗いすぎるのは禁物です。
デリケートゾーン専用以外の製品の使用
ボディソープや香水・香り付きスプレーなど、一般的な製品を陰部に使うこともトラブルのもとです。刺激の強い成分や香料は膣や外陰部の粘膜には負担となり、かぶれや炎症を起こしたり、膣内の細菌バランスを崩す可能性があります。デリケートゾーンのケアには専用の低刺激・無香料の製品を使うようにしましょう。後ほど詳しく説明しますが、最近はドラッグストアでも弱酸性で低刺激のデリケートゾーン用ソープや保湿剤が市販されています。それらを上手に活用するのがおすすめです。
膣内洗浄(いわゆる「ビデ」や「ダッチュ」)のやりすぎ
市販のビデ用品や自己洗浄器具を使って膣の中まで頻繁に洗浄するのは、本来必要ありません。膣内は先述のとおり自浄作用があり、自然に古いおりものや細菌を排出しています。むしろ頻繁な膣内洗浄は膣内フローラの乱れを招き、細菌性膣症のリスクを高めるとされています。医師の指示なく自己判断で膣の中まで洗うことは避け、どうしても気になる場合は専門医に相談してください。
以上のように、デリケートゾーンのにおいは生理的な範囲のものから生活習慣・ケア方法まで様々な要因で変化します。では、実際にどんな病気がにおいの原因となりうるのか、次の章で詳しく見ていきましょう。
デリケートゾーンのにおいから考えられる主な病気
デリケートゾーンのにおいが普段と違うとき、考えられる病気や異常にはどのようなものがあるでしょうか。ここでは代表的な婦人科系の疾患を紹介します。におい以外の症状(おりものの色・形状、かゆみの有無など)とも照らし合わせて確認してみてください。
① 膣カンジダ症(カンジダ膣炎)
膣カンジダ症は女性の約5人に1人が一生に一度は経験すると言われるほど一般的な膣の感染症です。カンジダという真菌(カビ)の一種が膣内で増殖して炎症を起こします。主な症状は外陰部から膣にかけての激しいかゆみと、白くてポロポロとしたヨーグルト状またはカッテージチーズ状のおりものです。においはほとんど無いか、あってもごくわずかで酸っぱいような匂いに感じる程度です。強い悪臭を放つことは通常ありません。発症のきっかけとしては、抗生物質の服用や疲労・ストレスで免疫が落ちたとき、生理前後のホルモン変動などがあります。カンジダ症自体は市販の抗真菌薬(膣錠やクリーム)で治療可能ですが、初めて発症した場合や再発を繰り返す場合は婦人科で診断・治療を受けた方が安心です。
② 細菌性膣症
細菌性膣症(細菌性膣炎とも呼ばれます)は、膣内の細菌バランスが乱れて悪玉菌が異常増殖した状態です。原因菌としてはガードネラなど嫌気性菌の関与が多いとされますが、性感染症とは異なり性行為経験のない人にも起こりえます。最大の特徴は魚の腐ったような生臭いにおい(魚臭)で、薄い灰色~黄白色の水っぽいおりものが増加します。かゆみや痛みなどの自覚症状が乏しく、においで初めて気づくケースも少なくありません。細菌性膣症そのものは軽度なら自然に改善することもありますが、放置すると膣内の炎症が子宮や卵管へ波及して子宮内膜炎・骨盤炎症性疾患を引き起こす恐れがあります。また妊娠中の細菌性膣症は早産のリスクを高めるとも言われます。そのため、魚臭いおりものに気づいたら早めに婦人科で治療(膣錠や抗生剤の内服)を受けることが望ましいです。
③ 膣トリコモナス症(トリコモナス膣炎)
トリコモナス膣炎はトリコモナス原虫という寄生虫(単細胞の原生動物)が感染して起こる性感染症です。黄緑色で泡状のおりものとともに強い悪臭を発するのが典型的な症状です。また外陰部や膣の激しいかゆみ・灼熱感を伴う場合が多いです。トリコモナスは主に性行為で感染しますが、まれにお風呂や下着を介してうつる可能性もあります。男女とも感染しますが男性は症状が出にくいため気づかずパートナーにうつし合ってしまう(いわゆるピンポン感染)こともあります。治療は抗原虫薬(メトロニダゾール等)の内服で比較的簡単に治りますが、パートナーと同時に治療しないと再感染を繰り返してしまうため注意が必要です。
④ 萎縮性膣炎(老人性膣炎)
萎縮性膣炎は、更年期以降のエストロゲン低下によって膣粘膜が萎縮・乾燥し、軽い炎症を起こしている状態です。症状としては膣や外陰部のかゆみ・ヒリヒリ感、性交痛などが多いのですが、粘膜が薄いために少量の出血や黄灰色のおりものが出ることもあります。おりものが増えている場合は嫌な臭いを伴うことがあります。細菌感染を伴って細菌性膣炎を併発するとより強い悪臭が出ることもあります。萎縮性膣炎自体はホルモン補充療法(エストロゲンクリームの膣内塗布など)で改善しますし、当院でも行っている膣のレーザー治療(インティマレーザー等)によって潤いを取り戻すことで症状緩和が期待できます。更年期世代で「最近デリケートゾーンがなんとなく臭う」という方は、この萎縮性膣炎が背景にあるかもしれません。
レディースクリニックなみなみのインティマレーザーのページはこちら⑤ その他の性感染症・疾患
上記以外にも、デリケートゾーンのにおいに影響する病気はいくつかあります。
- 淋菌感染症・クラミジア感染症:いずれも代表的な性感染症(STD)ですが、これら自体はおりものの量が増えたり膿が混じることはあっても、特有のにおいを生じることはそれほど多くありません。しかし感染によって膣内環境が乱れることで細菌性膣症を併発したり、子宮頸部からの膿性分泌物で軽い臭いを感じる場合もあります。下腹部痛や不正出血を伴うことが多いので、そうした症状があれば早めに検査しましょう。
- 子宮頸がん・子宮体がん:ごくまれにですが、婦人科系の悪性腫瘍で異臭を感じるケースもあります。とくに進行した子宮頸がんでは悪臭のある帯下(おりもの)を呈することがあります。ただし、これらは誰にでも起こるものではなく、まずは先に述べた良性の膣炎などを疑うのが一般的です。心配な場合は検診を受けて確認すると安心でしょう。
- 外陰部の皮膚炎:デリケートゾーンの表面(外陰部)に湿疹やただれがあると、そこに雑菌が感染して膿んだ臭いがすることがあります。アトピーや接触皮膚炎などで陰部が荒れている方は、痒みと併せて臭いにも注意が必要です。
以上、デリケートゾーンのにおいに関係する代表的な疾患を挙げました。**「強いにおい+その他の症状」**がある場合には何らかの病気の可能性がありますので、自己判断せず専門医に相談することをおすすめします。
デリケートゾーンのにおいを予防・軽減するセルフケア方法
デリケートゾーンのにおいトラブルを防ぐためには、日頃からのセルフケアが重要です。正しいケアによって膣内フローラを健全に保ち、においの元を溜め込まない工夫をしましょう。ここでは自宅でできるケア方法をいくつか紹介します。
① デリケートゾーンの正しい洗い方
デリケートゾーンを清潔に保つ基本は「やさしく洗う」ことです。以下のポイントに注意してみましょう。
- 石鹸は低刺激の専用製品を使用:ボディソープではなく、デリケートゾーン専用の弱酸性ソープや敏感肌向けの無香料石鹸を使いましょう。ドラッグストアでも「フェミニン/インティメイトウォッシュ」と呼ばれる商品が販売されています。弱酸性であれば膣内の酸性環境を崩しにくく、必要な常在菌への影響も少なくて済みます。
- 指の腹でやさしく洗う:洗う際はゴシゴシ擦らず、泡立てた石鹸を手にとって指の腹で外陰部(大陰唇・小陰唇のひだの間や陰毛の生えている部分、肛門周囲)を撫でるように洗います。特に皮膚どうしが接する溝部分(陰裂や陰核包皮周辺、肛門と膣の間の会陰部)は汚れが残りやすいので、丁寧に洗ってください。膣の中までは洗浄しなくて大丈夫です。
- すすぎと乾燥をしっかり:石鹸成分が残るとかぶれの原因になるため、ぬるま湯で十分にすすぎましょう。洗浄後はデリケートゾーン専用の清潔なタオルで水分を押さえるように優しく拭き取ります。ゴシゴシ拭いたり自然乾燥させたりせず、清潔な柔らかい布でポンポンと水気を取るイメージです。
- 洗いすぎない:お風呂で1日1回洗えば十分です。それ以上頻回に石鹸で洗ったり、トイレの度にビデで膣内洗浄したりする必要はありません。過度な洗浄は前述の通り逆効果になりえますので注意しましょう。
② 蒸れを防ぐ工夫(下着・衣類の選び方)
日常生活でできる蒸れ対策も、におい予防に有効です。
- 通気性の良い下着を着用:下着は綿素材など通気性・吸湿性の良い生地がおすすめです。化学繊維や締め付けの強いデザインのものは日中ずっと身につけていると蒸れて雑菌が繁殖しやすくなります。どうしても化繊のランジェリー等を着けたい場合は、長時間連続で使用しない、家では綿の楽な下着に履き替える、といった工夫をしましょう。
- 湿ったままにしない:運動や暑い日の外出などでデリケートゾーンが汗ばんだら、できればシャワーで洗い流すか下着を交換しましょう。難しい場合でも、トイレットペーパーや清潔なデリケートゾーン用ウェットシートで汗を軽く拭き取るだけでも違います。とにかく長時間湿った状態を放置しないことがポイントです。
- おりものシート・ナプキンはこまめに交換:忙しいとつい後回しにしがちですが、蒸れ防止のためには2~3時間ごとに交換するのが理想です。最近は吸水性が高くムレにくいシートやナプキンも出ていますので、自分の肌に合うものを選びましょう。就寝時はおりものシートを外して通気を良くすることも検討してください。
- 陰毛の処理:デリケートゾーンの毛(陰毛)が多いと汗やおりものが付着してにおいやすくなります。衛生面では適度に処理するのも一つの方法です。VIO脱毛まではしなくても、ハサミで短くカットするだけでも蒸れにくくなり、におい軽減につながります。ただしカミソリで剃るとチクチクした毛が生えてきて皮膚を刺激することもあるため、処理後の肌ケアも忘れずに行いましょう。
③ 市販のデリケートゾーンケア用品の活用
近年、「フェムケア」と呼ばれる女性のデリケートゾーンケア市場が拡大しており、様々な市販アイテムが手に入るようになっています。上手に取り入れることでセルフケアがより充実するでしょう。
- デリケートゾーン専用ソープ:先述したように弱酸性で低刺激のフェミニンウォッシュはドラッグストアや通販で購入できます。製品によっては保湿成分や抗炎症成分が配合されており、洗浄と同時に肌をいたわることができます。毎日使うものなので、自分の肌に合ったものを選ぶと良いでしょう。
- デオドラントスプレー・シート:陰部に使える消臭スプレーや拭き取り用のウェットシートも市販されています。汗をかいた後や、生理中にトイレでさっとひと吹きして拭き取ることでリフレッシュできる商品もあります。アルコールフリーで保湿成分入りのものなど肌に優しい工夫がされた商品を選びましょう。ただし香りで誤魔化すタイプのスプレーは匂いが混ざって逆に不快になる場合もあるため、無香料タイプがおすすめです。
- デリケートゾーン用保湿クリーム:膣や外陰部の乾燥が気になる方には、ヒアルロン酸配合などの専用保湿クリームやオイルも販売されています。更年期以降の方は特に、外陰部の乾燥を放置するとバリア機能低下から雑菌繁殖を招きやすいため、お風呂上がりに適度な保湿をすることも有効です。
- 膣錠タイプの洗浄剤・消臭剤:市販で膣に入れるタイプの洗浄剤(デオドラント剤)もあります。錠剤を膣内に入れると発泡して洗浄・消臭する仕組みですが、使用頻度や使い方を誤ると膣内フローラを乱す恐れがあります。基本的には医療機関で処方されることが多いので、自己判断で頻繁に使用するのは避けた方が良いでしょう。
④ 乳酸菌サプリメント・腟内フローラケア
最近注目されているのが、乳酸菌サプリメントなどによる腟内フローラのケアです。腟内フローラとは膣内の細菌叢(さいきんそう)のことで、善玉菌と悪玉菌のバランスが保たれていることが理想的です。このバランスを内側から整える目的で、経口または膣内に挿入するタイプのプロバイオティクス(乳酸菌製剤)が利用されています。
乳酸菌サプリの効果
乳酸菌サプリを摂取すると腸内環境が整うだけでなく、一部の乳酸菌は膣内にも到達し定着して善玉菌として働く可能性があるとされています。実際、細菌性膣症や膣カンジダ症の再発予防に乳酸菌(ラクトバチルス属)の投与が有効だったという研究も報告されています。即効性は期待できませんが、長期的な膣内環境の改善をサポートする手段として注目されています。
当院で取り扱っている乳酸菌サプリ
レディースクリニックなみなみでも、膣内フローラのバランスを整えることを目的とした乳酸菌含有サプリメントを取り扱っております。繰り返す細菌性膣症や膣カンジダ症にお悩みの方の再発予防や、普段からデリケートゾーンの健康維持を図りたい方におすすめしています。ご興味のある方は受診時にお気軽にご相談ください。
食生活で善玉菌を増やす
サプリだけでなく、ヨーグルトや発酵食品など乳酸菌を含む食品を積極的に摂ることも腸内・膣内環境改善に役立ちます。加えて、オリゴ糖や食物繊維など善玉菌のエサとなる成分を含む食品(穀物、果物、野菜など)をバランスよく食べることも大切です。栄養バランスの良い食生活は免疫力アップにもつながり、結果的に婦人科トラブル全般の予防になります。
以上のセルフケアを実践してもにおいが改善しない場合や、明らかに異常を感じる場合は、次に述べるように医療機関での相談を検討しましょう。
「このにおい、大丈夫?」受診の目安とタイミング
デリケートゾーンのにおいについて「受診すべきか悩んでいる」という方も多いでしょう。以下に婦人科を受診する目安となるポイントをまとめます。
- 強い悪臭が続く:魚の腐った臭いや明らかな異臭が数日経っても治まらない場合。特におりものの異常(色や量の変化)も伴う場合は早めに受診を。細菌性膣症や性感染症の可能性があります。
- 強いかゆみや痛みを伴う:外陰部や膣の激しいかゆみ、ヒリヒリ感、灼熱感などがある場合。膣カンジダ症やトリコモナス感染症などが疑われます。かゆみがひどいとつい掻いてしまい悪化させる恐れもあるため、我慢せず受診しましょう。
- おりものの色が異常:黄緑色、灰色、茶色、血が混じる等、普段と明らかに違う色調のおりものが出ている場合。感染症やポリープ・炎症性疾患、まれに悪性疾患のこともあります。特に悪臭や腹痛を伴う場合は注意。
- 下腹部痛や発熱を伴う:においだけでなく下腹部の痛み、発熱、倦怠感など全身的な症状がある場合は放置しないでください。子宮や卵巣・卵管への波及感染や重い骨盤内感染症の可能性もあります。夜間でも我慢せず緊急受診を検討しましょう。
- 市販薬で治らない:膣カンジダ再発で市販の膣錠を使ったが改善しない、デオドラント商品を試しても匂いが取れない、といった場合も病院で相談を。自己判断での市販薬の長期使用は禁物です。
- 心配でストレスになっている:明らかな症状がなくても、「自分では正常かわからず不安」「匂いが気になって日常生活に支障がある」という場合は、一度検査を受けて異常なしと確認するだけでも安心できます。我慢してストレスを溜めるより、気軽に相談してみましょう。
上記のような状況であれば、遠慮なく婦人科を受診してください。デリケートゾーンの悩みは恥ずかしいと感じるかもしれませんが、医師にとっては日常的な相談内容ですので気に病む必要はありません。「こんなことで受診していいのかな?」と思うような些細なことでも、あなたの安心につながるなら受診する価値は十分あります。
医療機関で行う治療と当院でできるケア
婦人科を受診すると、まずはおりもの検査などでにおいの原因を特定します。その上で、原因に応じた適切な治療やケアが行われます。当院で対応している主な治療・ケア方法を紹介します。
- 薬物療法(膣錠・内服薬):細菌性膣症やトリコモナス症であれば抗生物質や抗原虫薬の内服、膣カンジダ症であれば抗真菌薬の膣錠や軟膏を処方します。性感染症の場合は原因菌に合わせた抗菌薬治療を行います。適切な薬を使えば多くの場合、数日~1週間程度でにおいは改善します。
- 膣洗浄・処置:必要に応じて院内で膣内を洗浄し、おりものや膣内の分泌物を除去する処置を行うことがあります。特に強い臭気の原因がおりものの貯留や異物の場合などは、洗浄によりスッキリするでしょう。タンポンの取り忘れなどが発見された場合も、除去して洗浄すれば臭いはすぐ消えます。
- ホルモン補充療法:更年期による萎縮性膣炎が原因と考えられる場合は、低用量のエストロゲンクリームを膣に投与して膣粘膜の状態を改善する治療を行います。数週間の使用で膣の潤いが増し、自浄作用が回復してにおいも軽減していきます。
- レーザー治療(インティマレーザー等):当院では、膣や外陰部にレーザー照射を行う最新の治療も導入しています。レーザーにより膣粘膜のコラーゲン産生を促し膣の潤い改善や膣内環境の正常化を図るものです。萎縮性膣炎の改善や軽度の尿もれ対策として効果が期待でき、結果的に臭いの軽減にもつながる可能性があります。メスを使わない治療ですので、更年期以降のケアとして関心がある方はご相談ください。
- 乳酸菌製剤の活用:再発を繰り返す細菌性膣症などに対し、治療後の予防策として乳酸菌製剤(膣錠やサプリメント)を取り入れる場合があります。当院でも乳酸菌サプリを処方できますので、ご希望の方には治療プラス予防ケアとして提案させていただきます。
- 日常ケアの指導:医療機関では、再発予防のための日常生活のアドバイスも受けられます。正しい洗い方や下着の選び方、生活上の注意点など、本記事で述べたようなセルフケアについても遠慮なくご相談ください。医師・スタッフが丁寧にお答えします。
当院「レディースクリニックなみなみ」では、女性のデリケートなお悩みに寄り添い、専門性と親しみやすさを兼ね備えた診療を心がけております。「こんなことで受診していいのかな…」と思わず、気になる症状はお気軽にご相談ください。適切な治療とケアで、嫌なにおいの悩みから解放されましょう。
まとめ:デリケートゾーンのにおいの悩みは早めに専門家へ相談を
デリケートゾーンのにおいは、誰にでも多少はあるものです。ほんのり酸っぱい程度の匂いであれば正常な証拠であり、過剰に気にしすぎないことも大切です。しかし、自分自身が不快に感じるほど強いにおいや、普段と違う異臭に気づいた場合は、何らかの原因があるかもしれません。本記事で説明したように、ホルモンバランスの変化や生活習慣の要因、あるいは膣カンジダ症・細菌性膣症などの感染症まで、幅広く可能性をチェックしてみましょう。
そして、適切なセルフケア(正しい洗浄・蒸れ対策・専用製品の活用・乳酸菌サプリによるケア等)を実践してみてください。多くの場合、これらの対策で気になるにおいは軽減・改善します。それでもなお異常なにおいが続くときや、かゆみ・痛みなど他の症状を伴するときは、早めに婦人科を受診しましょう。専門医による治療で原因を取り除けば、嫌な臭いも解消されるはずです。
デリケートな悩みは放っておくとストレスになりがちです。「もしかして私だけ?」「恥ずかしい…」と悩む必要はありません。女性の体の悩みに寄り添う当院では、デリケートゾーンのにおいに関するご相談にも親身に対応いたします。レディースクリニックなみなみは、産婦人科専門医による適切な診断と治療はもちろん、セルフケアのアドバイスや当院取扱いの乳酸菌サプリメントを用いたケア提案など、総合的なサポートを提供しております。気になるにおいのせいで思い悩む日々とはさよならして、自信を持って毎日を過ごしましょう。当院への受診やご相談は、LINE予約にてお気軽にお問い合わせください。
レディースクリニックなみなみの婦人科外来を予約するデリケートゾーンのにおいに関するよくある質問
生理前になるとデリケートゾーンのにおいが強くなるのは普通ですか?
はい、生理前にデリケートゾーンのにおいが普段より強く感じられるのは珍しいことではありません。排卵後~生理直前はホルモンバランスの変化で膣内がややアルカリ性寄りになり、おりものの酸っぱいにおいが弱まるため相対的ににおいを感じやすくなります。また、生理前は体温が高くなり蒸れやすいことも影響します。生理が始まれば経血により一時的に鉄っぽい匂いが混ざることもありますが、生理後にホルモンバランスがリセットされれば通常は気にならない程度に戻ります。生理期間前後の一時的なにおいの変化であれば心配いりません。しかし、生理が終わっても強い魚臭いにおいが続く場合は細菌性膣症などの可能性もありますので、その際は受診を検討しましょう。
更年期になるとデリケートゾーンが臭くなりやすいのですか?
更年期に差し掛かる50代前後の女性では、エストロゲン(女性ホルモン)の減少により膣や外陰部の環境が変化し、においトラブルが起こりやすくなる傾向があります。エストロゲン低下で膣の潤いが失われると自浄作用が弱まり、膣内の善玉菌が減って悪玉菌が増えやすくなります。その結果、細菌性膣症や萎縮性膣炎になって生臭いにおいが発生することがあります。ただし、更年期だから必ず酷い悪臭がするわけではありません。清潔を心がけ適切な保湿ケアをしていれば、よほど不衛生にしない限りひどい悪臭は通常ありません。気になる方はホルモン補充療法や膣のレーザー治療で膣粘膜をケアすると、においの改善につながる場合があります。当院でも更年期のデリケートゾーンケアを行っていますので、相談してください。
膣カンジダ症と細菌性膣症ではにおいの違いがありますか?
はい、膣カンジダ症とかかる細菌性膣症ではおりもののにおいに明確な違いがあります。膣カンジダ症ではおりものの臭いはほとんど無いかごく軽度で、「強いかゆみ」が主症状です。おりものは白くポロポロしておりヨーグルト状ですが、嫌な臭いは通常しません。一方、細菌性膣症では魚が腐ったような生臭いにおいが特徴的です。おりものは灰白色でサラサラしていますが、強い魚臭があるため比較的すぐ気づくでしょう。また細菌性膣症ではかゆみはそれほど強くありません(軽い違和感程度のことが多い)。どちらも婦人科で治療すれば改善しますので、自己判断が難しい場合は検査を受けて適切な治療を受けましょう。
デリケートゾーンは石鹸で洗ったほうがいいですか?水洗いでは不十分?
強い石鹸でゴシゴシ洗う必要はありません。むしろ洗いすぎは逆効果になりえます。デリケートゾーンはぬるま湯でやさしく洗うだけでも十分清潔に保てます。皮膚が敏感な方や普段からトラブルがない方は、水洗いのみでも構いません。臭いが気になる場合やおりものが多い日は、低刺激のデリケートゾーン専用ソープを泡立てて指で優しく洗浄すると良いでしょう。それ以上に強力な薬用石鹸やボディソープで念入りに洗ったり、膣の中まで洗浄したりするのはおすすめしません。大切なのは「洗いすぎない・擦りすぎない」ことです。毎日清潔な水で流し、必要なときだけ適切な石鹸を使うというバランスを心がけてください。
デリケートゾーンのにおいが気になる場合、婦人科を受診するのは大げさでしょうか?
いいえ、少しでも不安があるなら婦人科を受診して相談することをおすすめします。デリケートゾーンのにおいはデリケートな悩みで、なかなか人には聞けず一人で抱え込みがちですが、婦人科では日常的によくある相談内容です。異常がないか検査で確認し、「正常です問題ありませんよ」と言ってもらえるだけでも安心できるでしょう。万一感染症などが見つかれば早期に治療できます。放置して症状が悪化すると治療が長引くこともありますので、「受診するほどではないかな…」と我慢するより、気軽に専門医に相談してください。当院でも「おりものの臭いが気になる」「デリケートゾーンがなんとなく不快」といった相談を多く受けています。プライバシーに配慮して診察いたしますので、ご安心ください。
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執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
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