
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
…続きを見る
女性の下腹部に痛みを感じると、「何か病気ではないか」と不安になりますよね。
下腹部の痛みにはさまざまな原因があり、痛む部位や痛み方によって考えられる病気が異なります。
本記事では、女性の下腹部痛について、部位別・痛みの種類別に原因を解説し、どの診療科を受診すべきかの目安やをレディースクリニックなみなみの産婦人科専門医がご紹介します。
下腹部に痛みを感じる原因を部位ごとに解説
下腹部の痛みは、その痛みを感じる部位によって原因として考えられる病気が異なります。まずは、お腹の痛む場所(全体・中央、右側、左側、子宮のあたり、腰まで含む)ごとに、代表的な原因をみていきましょう。

下腹部の全体・真ん中の痛み
おへその下あたりから下腹部全体が痛む場合、消化器系や泌尿器系の病気が関与していることが多いです。
例えば、感染性腸炎(ウイルスや細菌による胃腸の感染症)や過敏性腸症候群(ストレスなどで腸の働きが乱れる機能性の腸の不調)では下腹部全体に痛みが出ることがあります。これらは下痢や嘔吐を伴うこともあります。
また、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)や大腸憩室炎、大腸炎、虫垂炎(いわゆる盲腸)など、大腸に関連する疾患でも下腹部中央~全体に痛みが生じることがあります。
膀胱(ぼうこう)や尿管など尿路系のトラブルでも下腹部中央に痛みが出ます。膀胱炎は女性に多い尿路の感染症で、排尿時の痛みや残尿感、頻尿とともに、下腹部の不快感や痛みが現れます。さらに尿路結石(尿の通り道に石ができる)や腎盂腎炎(腎臓の感染症)でも、下腹部から背中にかけて痛むことがあります。
下腹部の右側の痛み
右の下腹部が痛む場合、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)の可能性がまず考えられます。虫垂炎では初期にはみぞおち付近が痛み、その後数時間かけて痛みが右下腹部に移動するのが典型です。右下腹部を押すと痛みがあり、発熱や吐き気を伴うこともあります。虫垂炎の疑いがある場合は早急に外科受診してください。
また、右下腹部には大腸の一部(盲腸や上行結腸)や小腸末端があるため、大腸憩室炎(大腸の壁のポケット状の憩室で起こる炎症)でも痛むことがあります。特に盲腸や上行結腸の憩室に炎症が起きると、虫垂炎と似た右下腹部痛を引き起こすことがあります。憩室炎では発熱や下痢、場合によっては血便を伴うこともあります。
右側の下腹部痛はその他、大腸炎(大腸全体の炎症)や過敏性腸症候群、炎症性腸疾患でも起こりえます。さらに、右側の胆嚢炎(胆のうの炎症)や膵炎が腹部全体の痛みとして感じられ、それが右下腹部に及ぶ場合もあります。
女性の場合は、右の卵巣・卵管の病気にも注意が必要です。卵巣嚢腫(卵巣にできる袋状の腫れもの)が大きくなったり、卵巣がねじれる卵巣茎捻転が起きたりすると、右下腹部に突然強い痛みが出ます。卵巣のトラブルによる痛みは激痛であることが多く、吐き気や冷や汗を伴うこともあります。特に卵巣のねじれ(捻転)は緊急手術が必要な場合があるため、疑われる症状のときは一刻も早く婦人科を受診してください。
下腹部の左側の痛み
左の下腹部が痛む場合、便秘が原因のことがよくあります。大腸の一部であるS状結腸は左下腹部に位置し、便がたまりやすい場所です。そのため、便秘になると左下腹部に違和感やチクチクした痛みが生じることがあります。ガスが溜まってお腹が張り、キリキリした痛みを感じることもあります。
また、大腸憩室炎は日本人では左側(S状結腸)に好発するため、左下腹部痛の原因として重要です。憩室炎になると左下腹部に鋭い痛みが現れ、発熱や下痢を伴うことがあります。高齢者や便秘がちな方に多い傾向があります。
まれに虫垂炎で痛みが左側に出ることも報告されていますが、それほど一般的ではありません。むしろ、左側の痛みでは腸閉塞(腸詰まり)や腸捻転(腸のねじれ)など腸管のトラブルや、女性では後述する婦人科系の疾患も考慮します。
左下腹部の痛みに下痢や腸がゴロゴロ動く感じが伴う場合は、大腸の病気が疑われます。一方、痛みが鈍く長引いている場合は、女性では子宮や卵巣の異常の可能性もあります。
子宮のあたりの痛み
下腹部の中でも、ちょうど子宮のあたり(下腹部中央よりやや下)が痛む場合は、女性特有の原因が考えられます。子宮や卵巣・卵管といった婦人科系の臓器の異常です。
まず考えられるのは、生理に関連した痛みです。月経困難症(激しい生理痛)や子宮内膜症では、生理中あるいは生理前後に下腹部中央の強い痛みを引き起こします。内膜症では経血が逆流して子宮の外側に増殖巣を形成し、生理のたびに炎症や癒着を起こすため、周期的な痛みだけでなく慢性的な鈍い痛みにつながることもあります。
子宮筋腫は子宮の壁にできる良性の腫瘍ですが、大きくなると周囲の臓器を圧迫して下腹部に圧迫感や痛みを生じます。筋腫の位置によっては、生理痛が普段より酷くなったり、不正出血や貧血の原因にもなります。筋腫が大きく育ちすぎると、組織が変性して痛みを発することもあります。
骨盤内炎症性疾患(PID)も子宮付近の痛みの原因です。例えば、クラミジアや淋菌などの感染が子宮や卵管に広がると、骨盤腹膜炎を起こして下腹部全体の痛みや発熱を引き起こします。下腹部痛とともにおりものの異常や発熱がある場合、早めに婦人科を受診して感染症のチェックを受けましょう。
下腹部と腰の痛み
下腹部の痛みと同時に腰痛を感じる場合、いくつか考えられる原因があります。ひとつは筋肉の緊張によるものです。お腹の奥には「腸腰筋(ちょうようきん)」という、腰の骨と脚(太ももの骨)をつなぐ大きな筋肉があります。長時間同じ姿勢でいたり、運動不足やストレスでこの腸腰筋が硬くこわばると、腰だけでなく下腹部にも張りや重苦しい痛みを感じることがあります。デスクワークの多い方や体の冷えやすい方は、この筋肉の凝りによる腰と下腹部の痛みに注意が必要です。
もう一つ、腰と下腹部双方の痛みから考えられるのは泌尿器系の病気です。腎臓や尿管のトラブル(例えば腎盂腎炎や尿管結石)では、腰のあたり(背中側)から脇腹、さらに下腹部にかけて痛みが放散することがあります。特に尿管結石では石が動くたびに激しい痛み(疝痛発作)が起こり、腰から下腹部にかけて転げまわるほどの痛みを生じるケースもあります。
女性の場合は、先述の子宮筋腫が大きくなった場合に腰痛を伴うこともあります。これは筋腫が後方に膨らんで腰の神経を圧迫したり、子宮が重くなることで姿勢に影響を及ぼすためです。
このように下腹部と腰が同時に痛む場合、筋肉由来なのか内臓(婦人科・泌尿器)由来なのかを見極めることが大切です。腰をひねったり叩いたりして痛みが変化する場合は筋肉痛の可能性がありますが、安静にしても改善しない強い痛みや発熱を伴う場合は内臓の炎症を疑い、早めに受診しましょう。
下腹部の痛みの種類ごとに考えられる原因
下腹部痛は感じ方にも個人差がありますが、「チクチク」「キリキリ」「ぎゅーっと」「重い」など表現される痛み方によって、ある程度原因の見当をつけることができます。ここでは、痛みの性状別に考えられる原因を解説します。

チクチクした痛み
針で刺すようなチクチクした軽い痛みを感じる場合、一時的な生理的現象からくる痛みのことがあります。代表的なのが排卵痛です。生理と生理のちょうど中間頃(次の生理の約2週間前)にあたる排卵日の前後に、下腹部にチクチク、ズキズキとした痛みを感じる女性がいます。これは、卵巣から卵子が飛び出す際に卵胞が破れて腹腔内に少量の出血が起こるためと考えられます。痛みは通常軽度で、数時間から長くても1~2日以内に自然におさまります。排卵痛は病的なものではありませんが、痛みが強い場合には婦人科で相談すると痛み止めを処方してもらえることもあります。
同じチクチクでも、左右どちらか片側に強く感じる場合は、その側の卵巣のトラブルも考えられます。例えば卵巣嚢腫がある程度大きくなっているときや、嚢胞が破裂しかけているときなどにチクチクとした痛みが出ることがあります。ただし痛みが急に強くなった場合は前述の卵巣捻転の可能性もあるため注意が必要です。
一方、チクチクというよりキリキリと刺すような鋭い痛みで、下痢や腹鳴を伴う場合は消化管の痙攣痛(けいれんつう)かもしれません。暴飲暴食やストレスが原因で一時的に腸が痙攣しているようなケースでは、時間とともに治まっていきます。しかし、激しい刺す痛みが続く場合は腸閉塞や尿路結石など緊急の疾患のこともあるため油断できません。
絞られるような痛み
お腹を内側からギューッと絞られるような痛みを感じる場合、腸の蠕動(ぜんどう)運動による痛みが考えられます。蠕動運動とは腸が内容物を先へ送るための波のような動きですが、強いストレスや体質によってはこの動きが過剰になり、痛みとして感じることがあります。特に女性は生理前や生理中に子宮が収縮する際、隣接する腸も刺激されて蠕動が活発になることがあり、生理痛と共に下腹部の締め付けられるような痛み(蠕動痛)を感じることがあります。下腹部全体(特に真ん中)がぎゅーっと痛むような場合に疑われます。
また、下痢をしているときにお腹がキリキリ・グルグル痛むのも、腸の痙攣や蠕動運動による痛みです。過敏性腸症候群ではストレス下でこのような痛みが出やすく、排便すると楽になるのが特徴です。
生理とは無関係に「締め付けられるような痛み」が頻繁に起こる場合は、消化器内科で過敏性腸症候群や炎症性腸疾患の検査を受けると安心です。また、生理前後に毎回ひどい蠕動痛を感じるようなら、婦人科で月経に関連したホルモンバランスの乱れについて相談してみましょう。
鈍痛が続く
下腹部に鈍い痛みが長く続く場合、女性ではやはり子宮や卵巣に原因があることが多いです。月経期間以外でも慢性的に下腹部が重苦しく痛むようなら、月経困難症やその背後にある子宮内膜症・子宮筋腫などの可能性があります。子宮内膜症や子宮腺筋症では、生理以外の時期にも炎症による痛みが持続することがあります。また子宮筋腫でも、生理時以外に圧迫感のある鈍痛が見られることがあります。
子宮筋腫や卵巣腫瘍などがあると、痛み以外にも次第にお腹が膨らんできたり、膀胱や直腸が圧迫されて尿が近くなる、便秘がちになるといった症状が現れることがあります。痛みが徐々に強くなってきているようなら要注意です。
一方、鈍痛だからといって油断できないのが慢性骨盤痛症候群です。これは明らかな疾患がないのに骨盤周りに鈍い痛みが続く状態で、ストレスや自律神経の乱れが関与すると言われます。婦人科検診で特に異常がないときは、心因的な要因による慢性痛も検討します。
女性は下腹部に痛みがあるとき何科を受診すべき?
下腹部の痛みがあるとき、女性の場合はまず産婦人科(婦人科)を受診すべきか、それとも内科や消化器科に行くべきか迷うことがありますね。基本的には、痛みの原因が消化器系か婦人科系かを判断するポイントがあります。
- 消化器症状がある場合:下痢や血便、お腹の張りなど消化器の症状を伴う場合は、まず内科あるいは消化器内科を受診するとよいでしょう。消化器内科では必要に応じて胃腸の検査を行い、虫垂炎などの場合は外科に紹介してくれます。
- 婦人科症状がある場合:生理不順や不正出血、帯下(おりもの)の異常、下腹部のしこりを感じるなど婦人科系の症状がある場合は、産婦人科を受診してください。妊娠の可能性があるときも産婦人科が適切です。特に生理に関連して痛みが出る場合や、下腹部痛とともに性器出血がある場合は婦人科受診が第一選択です。
- 泌尿器症状がある場合:排尿時の痛みや血尿、強い残尿感がある場合は泌尿器科が適しています。女性はまず婦人科に行きがちですが、膀胱炎など尿路の問題であれば泌尿器科の専門領域です。ただし婦人科でも尿検査は可能なので、迷う場合は婦人科でも相談に乗ってもらえます。
- 判断がつかない場合:消化器症状・婦人科症状のいずれもはっきりしない場合、まずは内科を受診するのも一つの方法です。内科で問診や血液検査を行い、必要に応じて適切な専門科に紹介してもらえます。また、普段かかりつけの婦人科がある方はそちらで相談してみても良いでしょう。
女性の下腹部の痛みについてよくある質問
排尿後に下腹部に痛みがあるときはどうしたらいい?
排尿時や排尿直後に下腹部が痛む場合、まず考えられる原因は膀胱炎など尿路の感染症です。特に女性は尿道が短く膀胱炎を起こしやすい構造のため、細菌が膀胱に入り炎症を起こすと、排尿の終わり際や排尿直後に下腹部(膀胱のあたり)が痛むことがあります。膀胱炎の場合、痛みに加えて排尿時のヒリヒリ感(排尿痛)や残尿感、尿の濁り・血尿、頻繁にトイレに行きたくなる(頻尿)といった症状がみられます。
50代の女性の下腹部痛の原因は?
更年期前後の年代では婦人科系の病気の症状が現れやすい時期です。子宮筋腫が大きくなって痛みを感じ始めたり、閉経前後に増える子宮腺筋症(子宮筋層内に内膜が入り込む病気)で慢性的な下腹部痛が出ることがあります。また、閉経後でも子宮内膜症の遺残病変が痛みを引き起こすこともあります。また、注意したいのは卵巣腫瘍です。50代以降では悪性(卵巣がん)のリスクも上がります。初期の卵巣がんは自覚症状が乏しいですが、進行すると腫瘍が大きくなり腹痛や腰痛、お腹の張りが出てきます。実際に当院でも、下腹部痛が1週間ほど続いた50代女性の例で、最初は便秘と診断されましたが痛みが引かず詳しく検査したところ、左の卵巣に腫瘍が見つかったケースがあります。
急激に激しい下腹部の痛みが発生した場合、どうすれば良いですか?
急に激しい痛みが起こり、吐き気、発熱、意識の混濁などの症状が伴う場合は、虫垂炎、卵巣捻転、尿管結石など緊急性の高い疾患が疑われます。自己判断せず、すぐに救急外来などを受診してください。早期の診断と治療が重要ですので、異常を感じたら速やかに医療機関へ相談してください。
まとめ:女性が下腹部に痛みを感じた際は婦人科を受診しましょう
女性の下腹部痛には様々な原因があり、部位や痛み方によって消化器系から婦人科系まで多岐にわたります。軽い痛みで一過性のものであれば様子を見ることもありますが、繰り返す痛みや普段と違う強い痛みを感じたときは、早めに医療機関を受診してください。特に迷ったときは婦人科を受診すると良いでしょう。婦人科では女性特有の病気の有無を確認でき、必要なら他科(消化器内科や泌尿器科)への紹介も行えます。
大切なのは、自分の身体のサインを見逃さないことです。「いつもと違う」と感じた下腹部の痛みは、あなたへの大事なメッセージかもしれません。我慢しすぎず専門家に相談し、早めの対応で大事に至らないようにしましょう。女性の健康を守るために、当院の婦人科も全力でサポートいたします。不安なことがあればいつでもご相談くださいね。
LINEで外来を予約する
執筆者兼監修者プロフィール
東大産婦人科に入局後、長野県立こども病院、虎の門病院、関東労災病院、東京警察病院、東京都立豊島病院、東大病院など複数の病院勤務を経てレディースクリニックなみなみ院長に就任。
資格
- 医学博士
- 日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
- FMF認定超音波医
…続きを見る
さらに、妊娠可能な方で生理が遅れている場合は異所性妊娠(子宮外妊娠)の可能性があります。特に卵管で妊娠が進行すると、破裂によって突発的な激痛と大量出血をきたし、命に関わることがあります。生理が来ていない状態で下腹部の激痛が起きた場合は、すぐに医療機関で妊娠検査とエコー検査を受けてください。