妊娠初期に起こる「つわり」
個人差はありますが、吐き気や嘔吐、食欲不振、倦怠感など、さまざまな症状が現れ、妊婦さんの心身を苦しめます。
「つわりは妊娠した証拠」「いつかおさまる」などと言われますが、実際に体験してみると想像以上に辛いものです。
「つわりがつらくて、毎日が憂鬱…」
「食事もまともに摂れず、赤ちゃんへの影響が心配…」
「一人目の出産の時につわりがひどくて二人目を考えてしまう」
つわりが辛くて、薬に頼りたいと思っても、「赤ちゃんへの影響は大丈夫?」と不安に感じてしまう方も多いのではないでしょうか?
この記事では、そんなつわりの症状や原因、そして薬を使った治療法について、産婦人科医の立場からわかりやすく解説していきます。
つわりを必要以上に我慢する必要はありません。この記事を参考に、ぜひ産婦人科に相談して、少しでも楽に妊娠期間を過ごせるようにしましょう。
つわりってどんな症状?
つわりは、妊娠によるホルモンバランスの変化などが原因で起こると考えられていますが、そのメカニズムにはまだ不明な点が多くあります。
症状の感じ方や程度には個人差があり、ほとんど症状が現れない方もいれば、日常生活に支障が出るほど症状が重い方もいます。
つわりの症状は人それぞれ
代表的なつわりの症状は以下の通りです。
一般的に多く、想像しやすいのは吐き気に関する症状ですが、そのほかの症状も幅広く、いかに妊婦さんが体調が悪いのかがわかります。
症状 | 説明 |
---|---|
吐き気 | 特定の匂いや時間帯に吐き気がしたり、実際に嘔吐したりする。 |
食欲不振 | 食欲がなくなったり、特定の食べ物を受け付けなくなったりする。 |
倦怠感 | 体がだるく、疲れやすい。 |
眠気 | 日中にも関わらず、強い眠気に襲われる。 |
頭痛 | ズキズキとした頭痛が続く。 |
においに敏感になる | 特定のにおいで吐き気を感じたり、気分が悪くなったりする。 |
よだれづわり | 唾液が過剰に分泌される。 |
食べづわり | 空腹になると吐き気がする。 |
つわりの原因は?
つわりの原因は、まだはっきりと解明されていませんが、妊娠によるホルモンバランスの変化や、精神的なストレスなどが関係していると考えられています。
- ホルモンバランスの変化
妊娠初期には、妊娠を維持するために「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」というホルモンが大量に分泌されます。このhCGの急激な増加が、つわりに影響を与えているという説が有力です。hCGが嘔吐中枢と言って、吐き気をコントロールする脳の部分を刺激するため吐き気などが生じると考えられています。 - 精神的なストレス
妊娠による環境の変化や、出産に対する不安などがストレスとなり、つわりを悪化させている可能性があります。
つわりはいつからいつまで続くの?
つわりが始まる時期や、症状が続く期間には個人差があります。
一般的には、妊娠5~6週頃から症状が現れ始め、妊娠12~16週頃には自然とおさまることが多いです。
ただし、中には妊娠後期までつわりが続く方もいます。
レディースクリニックなみなみのこちらの記事で、産婦人科専門医と助産師さんがつわりの症状に関してかなり詳しくまとめています。
つわりを我慢する必要はある?
妊娠初期に多くの女性が経験するつわり。「妊娠の証」や「いつかは治まる」などと言われ、我慢を強いられることがありますが、実はつらい症状を我慢する必要は全くありません。むしろ、適切に対処することが母体と胎児の健康のために重要なのです。
つわりを我慢し続けることで、様々な健康リスクが生じる可能性があります。頻繁な嘔吐や食事・水分摂取の困難により、脱水症状に陥るリスクがあります。これは母体の循環器系に負担をかけるだけでなく、胎児への栄養供給にも影響を与える可能性があります。また、食事量の減少や偏りにより、葉酸、鉄分、カルシウムなどの重要な栄養素が不足し、胎児の発育に影響を与える恐れもあります。
さらに、長期間のつわりは精神的な負担となり、不安やストレスを増大させます。これにより、うつ病や不安障害のリスクが高まる可能性があります。日常生活においても、仕事や家事、育児などの活動に支障をきたし、生活の質の低下につながることがあります。
つわりの治療法にはどんなものがある?
つわりの治療法には、日常生活でできる予防・対処法と、医療機関で受ける治療法の2種類があります。
欧米では内服薬の適応が通っているので、内服薬を使用するのが一般的になっています。日本ではまだ保険適応ではないのが現状です。当院では内服薬治療も行ってはいますが、まず内服以外にできることも知っておきましょう。
日常生活でできるつわりの予防・対処法
方法 | 説明 |
---|---|
食事の工夫 | 一度にたくさん食べずに、少量を頻回に食べるようにしましょう。 空腹時や食後にも吐き気が強い場合は、食べられるものを口にするようにしましょう。 冷たいものや酸っぱいもの、刺激の少ないものを好む傾向があるので、そうしたものを取り入れてみましょう。生姜はつわりをよくすると多くの妊婦さんが経験しています。 (生姜のつわりへの効果に関する論文はこちら▶︎) |
水分補給 | 吐き気がある場合は、無理に水やお茶を飲むのではなく、経口補水液やスポーツドリンクなどで、電解質も一緒に補給しましょう。 |
十分な休息 | 疲労や睡眠不足は、つわりの症状を悪化させる可能性があります。十分な睡眠をとり、無理をしないようにしましょう。 |
ストレスをためない | ストレスはつわりの症状を悪化させる可能性があります。 リラックスできる音楽を聴いたり、アロマを焚いたり、自分に合ったリフレッシュ方法を見つけましょう。 |
つわりバンドの使用 | 「つわりバンド」と呼ばれる、手首にあるツボ(内関穴)を刺激するバンドを装着することで、吐き気を抑える効果があるとされています。 |
換気をこまめにする | 部屋の空気を入れ替えて、気分転換をしましょう。 匂いに敏感になっている場合は、特に換気が大切です。 |
好きなことをする | つらいときは、無理に家事をしたり、仕事に行ったりする必要はありません。 自分のペースで、好きなことをして過ごしましょう。 |
周囲に協力してもらう | つわりが辛いときは、家族やパートナーに、家事や育児を手伝ってもらいましょう。 周囲の理解とサポートを得ることが大切です。 |
産婦人科でできるつわりの治療
つわりの治療薬には、吐き気止めや消化促進作用のある薬などがあります。
いずれも、妊婦さんの安全性を考慮した上で処方・点滴されますので、医師の指示に従って服用しましょう。妊婦さんには安全性が確かめられているもの、経験則的に安全とされているものを選択して使用します。
また、対症療法的に食事摂取が不十分な場合には点滴で水分や栄養の補充を行う場合もあります。
薬の種類 | 効果 |
---|---|
制吐剤(吐き気どめ) | 吐き気を抑える効果があります。プリンペラン、ドンペリドンという薬を使用することが多いです。(プリンペランの安全性に関して▶︎) |
ビタミンB6製剤 | つわりによる吐き気や嘔吐を軽減する効果があるとされています。ピリドキシン、ピドキサール と言った薬を使用します。(ビタミンB6の有効性に関して▶︎) |
漢方薬 | 体質や症状に合わせて、さまざまな漢方薬が処方されます。小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などを使用することが多いです。 |
つわりに効果的な内服薬「ボンジェスタ」って?
ボンジェスタは米国、欧州では一般的なつわりの薬ですが、残念なことに日本ではつわりに対する適応が通っておらず、国内製薬会社での採用もないです。そのため、輸入薬として使用するしか現段階では選択肢がありません。
成分と作用
ボンジェスタは、ドキシラミンコハク酸塩とピリドキシン塩酸塩(ビタミンB6)の2つの成分を含んでいます。ドキシラミンは抗ヒスタミン薬であり、体内の特定の自然物質(アセチルコリンやセロトニン)に作用することで、つわりの症状を和らげると考えられています。一方、ピリドキシンは一般的な、ビタミンであり、特に妊娠中や栄養不良の場合に不足しがちでもあります。
使用方法
ボンジェスタは、1日1錠もしくは2錠(1日最大2回)、または症状が持続する場合は1日最大2錠まで服用することができます。通常、就寝前に1錠を服用し、症状に応じて1錠追加することができます。
効果と安全性
ボンジェスタは、60年以上にわたる使用実績があり、母体と胎児に対する安全性が確認されています。ただし、重度の妊娠悪阻に対する効果は確認されていません。ボンジェスタは国内未承認薬ですが、アメリカでは FDA(食品医薬品局)によって承認されており、つわりの治療に広く使用されています。
副作用は?
一般的な副作用には、眠気や口の渇きなどがあります。まれに、めまいや視界のぼやけなどが報告されています。これらの副作用は通常軽度で一時的ですが、気になる症状がある場合は医師に相談することが重要です。
妊娠中の薬の使用には常に慎重を期す必要があるため、ボンジェスタの服用を検討する際は、必ず医師と相談し、個々の状況に応じて判断することが大切です。
つわりに関するよくある質問
つわりがひどくて仕事に行けません…
つわりがひどく、仕事に支障が出ている場合は、無理をせず会社に相談し、休職を検討しましょう。
医師に診断書を書いてもらうことで、傷病手当金の支給を受けられる場合があります。
また、母性健康管理指導事項連絡カードを会社に提出することで、勤務時間の短縮や作業の軽減などの措置を受けることができます。
つわりに効く食べ物ってあるの?
A:つわりに効果的な食べ物には個人差がありますが、一般的には、冷たくてさっぱりとしたもの、消化の良いものが良いとされています。
具体的には、そうめん、うどん、豆腐、ヨーグルト、ゼリーなどがおすすめです。
逆に、脂っこいもの、香りの強いもの、刺激物は、吐き気を誘発する可能性があるので控えましょう。
ただし、食べられるもの、食べたいと思うものは人それぞれなので、無理のない範囲で食事を摂ることが大切です。
つわりが全くない人もいるってホント?
はい、つわりの症状には個人差があり、全く症状が現れない方もいます。
つわりがないからといって、赤ちゃんに異常があるわけではありませんので、安心してください。
ただし、妊娠初期には、つわり以外にも、出血や腹痛などの症状が現れる可能性があります。
気になる症状がある場合は、自己判断せずに、速やかに医療機関を受診しましょう。
海外で認可されているつわりの薬はある?
「ボンジェスタ」というビタミンB6とこうヒスタミン薬の合剤が一般的で使用されています。日本では産婦人科学会から厚生労働省に認可の要望書まで出ている(参照▶︎)のにも関わらず保険適応になっていない状況です。レディースクリニックなみなみではオンライン診療でこのお薬の使用を行っています。
つわり用の市販薬はある?
市販薬では効果的なものは存在しません。
まとめ:つわりの症状がひどいときは婦人科の受診を
今回は、つわりについて、症状や原因、治療法などを詳しく解説しました。つわりの症状は、決して我慢する必要はありません。つらいときは一人で抱え込まず、周囲の人や医療機関に相談し、適切なサポートを受けながら、安心して妊娠生活を送れるようにしましょう。
レディースクリニックなみなみでは、全国からつわりのオンライン診療を受けいれています。
つわりをはじめ、妊娠や出産に関するさまざまな悩みに寄り添い、サポートいたします。お気軽にご相談ください。
つわりは、多くの妊婦さんが経験する、いわば妊娠の試練のようなものですが、日本人は我慢しすぎだと考えています。
つらすぎる症状のため、第二子を諦めるほどのトラウマになったりすることもあります。つわりの症状や程度は人それぞれです。
「たかがつわり」と周囲も思わずにつらいときは相談にのったり、医療機関を受診てうまく治療薬を使って乗り切ることが大切です。